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小説




同じ家で暮らしているにもかかわらず、雅とは顔を合わせることすら久しい。
なにしろ、家に帰って来ること自体が一週間ぶりだ。



「下條さん、大丈夫…?」

「んー…」

「…今日、出掛けられる…?」

「んー…」

「………」



再び目を閉じてしまった俺に、雅が静かに話し掛けてくる。
だが、あまりに適当な返事をしていたためか反応が返って来なくなり、俺はようやくきちんと目を開けた。



「みやび…?」

「……疲れてるなら、今日のお出掛けはなしでいいよ」



潤んだ目でこちらを見つめてくる雅。
思い出してみれば、最近の唯一の連絡手段であったメールでは、いつも最後に「今度一緒に出掛けられるの楽しみにしてるね」と書き添えてあった。



(こりゃあ、相当楽しみにしてたんだな…)



猿のようにヤりまくっていた俺達だが、今まで一緒にどこかへ出掛けたことなどない。
俺はセックスさえ出来ればそれでよかったし、今までに家に連れ込んだ奴らともそういうノリでやってきたが――



「いや…行くよ」



気付いたら、寝室を去ろうとする背中に声をかけていた。
バッと振り返った雅は悲しそうな顔のまま、本当に?大丈夫?と尋ねてくる。
それにゆっくりと頷き返すと、奴は途端にその顔を満面の笑みに変えた。


ああ、やっぱり俺はこいつの笑顔に弱い。





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