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小説







そんな訳で、俺は度々弁当を持ってこの秘書室に参上する。
このビルの窓拭きを担当しているおかげで、一応の関係者として建物内に入る許可は貰えた。
あれ以来弁当を誉めてくれることはないけれど、いつも残さず食べてくれるから、きっと味には満足しているはずだ。
皿洗いは好きではなかったが、最近は家に帰って空の弁当箱を洗う時間が苦ではない。



「ほら、屋上行きましょう!」

「いってらっしゃーい」

「また来てね純平くん」

「あ、はい!」



お姉さん達の言葉を背に受けながら、俺達は屋上に向かう。


空は眩しいくらいに晴れていた。
定位置になりつつあるフェンス前のベンチに並んで座り、三上さんの分の弁当を手渡す。



「今日のメインはハンバーグです。和風にしてみたんですけど、大丈夫っすか?」

「…ああ」



この数日間で、三上さんの好みは大体把握した。
ずばり言ってしまえば、彼が好きなのはお子様ランチのようなメニューだ。
ちょっと可愛いな…なんて、聞かれていたら口をきいてもらえなくなるようなことを考えていると、いつもは黙って箸を進める彼がぽつりと呟いた。



「……あいつらと、随分仲良くなったようだな」

「え?」

「…いや、何でもない」



二人っきりの屋上で、この至近距離。
声はもちろん聞き取れた。
あいつらって、秘書さん達のことだよな…?
けれど、三上さんの表情が示す意味が分からない。


日々豪華になり量も増えていく弁当を食べる彼は、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。





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