小説
9
そして、二ヵ月後の今。
大学最後の大会まで一ヵ月。
折角水泳で就職先も決まっているというのに、このままでは採用も取り消しになってしまう。
俺は母校である中学校のプールに来ていた。
大学の練習だけでは足りない。
寝る暇を惜しんででも、もっと練習しなければ。
――チャプ…
手を水に浸けると、大学の室内プールとは異なり、キンとするような冷たさが襲った。
でもこの冷たさには慣れている。
高校時代にもよく、夜中に忍び込んでは練習をしたものだ。
俺は水着の上から着込んでいた服を脱ぎ去って、夜のプールに飛び込んだ。
――バシャッ!
「はぁ、はぁ…」
この場には俺一人しかいないので、当然タイムを計ってくれる人間もいない。
だが、長年の感覚で、今の泳ぎでは全く駄目であることは自覚していた。
「…ッなんで…っ」
今まで何かに悩んで少々タイムが落ちても、翌日にはすぐ元に戻っていた。
これまでと一体何が違う?
これまでにはあって、今はないもの。
それは……
「くそ…ッ!」
何を考えているんだ。
元々、原因はあいつにあるんだ。
後ろを追ってくる奴がいなくたって、俺は――
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