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小説




頬に手を当てたまま俯いて動かない奴を放って、俺は家に帰った。
手の平に勢い良く当たった奴の頬はひどく熱くて、走って俺の後を追って来たのだということがなんとなく分かった。


そんなに必死に俺のことを追っておきながら、言いたいことはあれだったのか。


からかっただけ?
ふざけるな。
俺がどれだけ頭を悩ませたか…






この後から、俺のスランプは始まったのだ。


その日のタイムの下がり方とは比べものにならない程の最悪な泳ぎで、大会ではまさかの予選落ち。
タイムが下がり続けることに苛立つ俺を、初めは遠くから見ているだけの川田だったが、そのうちまた少しずつ話し掛けてくるようになった。


けれど、以前のように普通に話せるはずもない。
昔のように一緒に泳ぐことも、もうなくなってしまった。


川田にとっては、あのキスはただのからかいだった。
だが、俺にとってはそれだけでは済まされない何かを含んでいたのかもしれない。
考えれば考えるほど頭の中はめちゃくちゃで…スランプが終わる気配は全く感じられなかった。





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