小説
3
「……ただのスランプだ。何を言っているのか分からない」
「……そっか」
気持ちを落ち着けて小さく呟くと、部員達は興味を失ったように自分の練習を再開した。
ただ一つ残った川田の視線を感じながらも、俺は再び飛び込み台に立つ。
水の中は好きだった。
そこだけ時間の流れが違うような、静かな空間。
泳いでいるときだけは、何も考えなくてすむ。
それが、あのときから。
あの出来事からすべてが変わってしまったんだ。
誰もいなくなった部室で起こった、あの出来事から――
「あークッソー!なんで勝てねぇかな!あともうちょっとだってのに」
「ちょっとって…今日は1秒も俺の方が速かっただろ?」
「…まぁそうだけど。あーあ…いつかお前を追い越して、その澄ました顔をギャフンと言わせてやりてーよ」
「ははっ、そんな時は一生来ないよ」
「あーやだやだ、これだから自信家は!明後日の大会で後悔すんなよ?」
川田の言葉を聞きながら競泳用の水着を脱ぎ、下着とジーンズを素早く身につける。
もう何年も繰り返していることだから、着替えなんてあっという間だ。
[前へ][次へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!