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小説




「……ただのスランプだ。何を言っているのか分からない」

「……そっか」



気持ちを落ち着けて小さく呟くと、部員達は興味を失ったように自分の練習を再開した。
ただ一つ残った川田の視線を感じながらも、俺は再び飛び込み台に立つ。


水の中は好きだった。
そこだけ時間の流れが違うような、静かな空間。
泳いでいるときだけは、何も考えなくてすむ。


それが、あのときから。
あの出来事からすべてが変わってしまったんだ。


誰もいなくなった部室で起こった、あの出来事から――










「あークッソー!なんで勝てねぇかな!あともうちょっとだってのに」

「ちょっとって…今日は1秒も俺の方が速かっただろ?」

「…まぁそうだけど。あーあ…いつかお前を追い越して、その澄ました顔をギャフンと言わせてやりてーよ」

「ははっ、そんな時は一生来ないよ」

「あーやだやだ、これだから自信家は!明後日の大会で後悔すんなよ?」



川田の言葉を聞きながら競泳用の水着を脱ぎ、下着とジーンズを素早く身につける。
もう何年も繰り返していることだから、着替えなんてあっという間だ。





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