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小説




そんなに簡単に諦められるはずがないじゃないか。
最後の大会なんだぞ…?
あんな結果を残したままここを去るなんて、そんなことは俺のプライドが許さない。



「相変わらず不調か?」

「……川田」

「そんな怖い顔で見んなよ。折角の綺麗な顔が台無しだぞ?」

「…用がないなら話し掛けるな」

「冷たいなぁ。…でも、用ならあるよ」

「……なんだよ、早く言え」



用があると言ったにも関わらず、川田はなかなか口を開こうとしない。
何かを思案するように俯いていて、同じくらいの身長である俺からは、その顔は伺えない。


こいつとは、水泳を始めた時からのライバルだった。
幼い頃から同じ水泳教室に通い、中学は別だったが、その後高校、大学と同じ道を進んできた。
ライバルとは言えどもタイムはいつも俺の方が僅かに上で、それを必死に追い越そうとするこいつに、俺もまた必死で抗っていた。


なのに。



「……お前が不調なのって、この間の大会前に俺があんなことしたからだろ…?」

「…っ」

「あれは、もう――」

「違う!」



俺が突然あげた大声に、周りにいた部員達も何事かとこちらに注目する。
かつては百メートル自由形でこの部トップの速さを誇っていたのに、今ではコーチにさえ見限られる始末。
そんな人間の取り乱した姿は、周囲にとってはいい見物だろう。





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