小説
3
――ピンポーン
最上階に辿り着き、絨毯張りの廊下の一番奥の部屋のインターホンを鳴らす。
一般の物と変わらないはずのこの音でさえ、荘厳な玄関の扉の前では高級な音に聞こえてしまうから不思議だ。
――ガチャ
数秒のうちに扉が開き、中から現れたのは予想通り俺と同い年くらいの若い男。
色白で中性的ともとれる優しげな顔立ちは、すべてのパーツが計算されたように並んだ大変整ったものだった。
「こんにちは、依頼した加納です。どうぞお入りください」
「あ、失礼します」
玄関に入ってまず驚いたのはその広さ。
そこだけでも俺のアパートの狭い一室が入ってしまいそうなほどの空間だった。
(しかも、これって大理石…?)
実際に目にしたことはないが、よく芸能人のお宅拝見などで登場する床石が、玄関一面に敷き詰められている。
そこに脱がれた自分の汚れたスニーカーが、何とも異質な存在感を放っていた。
「こちらです」
「あっはい」
壁に飾られた絵などをキョロキョロと見回していると、少し先を歩いていた加納さんに声を掛けられ、問題の場所に案内される。
トラブル箇所は、これまた凄まじく広いリビングの一角に存在する、綺麗な対面式キッチンだった。
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