小説 1 今日もちびは凄く元気だ。 最近のお気に入りは俺の着古したダウンジャケットらしく、いつものようにクンクン匂いを嗅いだり、ほつれた糸を歯で引っ張って更にほつれさせたりと楽しそうに遊んでいる。 あれから、ちびが人間になる様子はない。 そもそもあの出来事自体が現実にあったことなのかどうか微妙なところなのでなんとも言えないが、ポケットの中に入るはずのない頭を必死に突っ込もうとしている姿を見てしまうと、一体何をしたいのか人間になったちびに聞いてみたくなる。 一人暮らしには不要なもう一本の歯ブラシに目をやりながらシャカシャカと歯磨きをしていると、先程までダウンに夢中だったちびが足元に擦り寄ってきた。 「なに?」 「クゥーン」 玄関の方をちらちらと見ながら甘えた鳴き声をあげるちび。 ……これは「もうお散歩の時間でしょ?」の合図だ。 「リード、取ってこい」 「わん!」 ちびは途端に駆け出したかと思うと、すぐにリードをくわえてこちらに戻ってきた。 本当に散歩好きだなと思いながらも、なんだかんだで俺もちびとの散歩は好きなので、手早く口を濯ぐと散歩の準備をして早速外へと向かった。 [前へ][次へ] [戻る] |