小説 9 突然立ち上がった俺にイアンさんは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに元の穏やかな顔に戻って彼も立ち上がり、ゆっくりとした足取りで俺の方へと近付いて来る。 「あの…!えっと…!」 (ち、近付かれると反応してるのがバレる――!) 頭の中ではそう叫んでいるのだが、もちろん口になんて出せるわけがない。 だが、徐々に俺と彼の間にある距離は縮まって。 結局まともな言葉も発することが出来ないまま、俺はいつの間にか窓を背にした状態で彼に追い詰められていた。 「ユーヤ…」 「あ、あの!達也、探さないと…!」 「うん…」 「お、俺…やっぱり下に降りて直接―――」 探してきます、という言葉は、彼の唇によって遮られた。 「んン――っ!」 (なんで…!?なんで俺、キスされてるの!?) 至近距離にある顔を目を見開いて凝視するが、彼もまた俺を見つめているために恥ずかしくなって視線をそらす。 近くで見るには、彼の顔はあまりに美しすぎた。 [前へ][次へ] [戻る] |