小説 5 「びっくりした…。俺の部屋の鍵って言われたんだからここは俺の部屋のはずで、でもここには安藤さんが住んでいて…。わけが分からなくなって、外で待ってた…」 「驚かせたくて、黙ってたんだ。 一緒に、暮らしてくれるか?」 その瞬間、大輝は強い力で安藤を抱き寄せた。 「夢、みたいだ…」 「大輝?」 「あんたと、外で会えるだけでも嬉しいのに、一緒に暮らせるなんて」 「……俺も、嬉しい」 安藤を抱き締める大輝の腕は、僅かに震えている。 それに気付いて穏やかな笑みを浮かべた安藤は、大輝からゆっくりと身体を離すと、少し背伸びをして軽いキスを送った。 「…っ!」 慌てたように一歩後ろに下がった大輝は、耳まで真っ赤だ。 自分からは頻繁にキスを仕掛けるくせに、されるとなると急に恥ずかしがる大輝が、安藤には愛しくて堪らない。 「い、いきなりは、反則だ…っ!」 「ははっ!ごめんごめん。…なぁところでさ、明日、どっか出掛けないか」 「…っ!うん」 「よし、決まり!どこに行きたい?お前の出所祝いでもあるんだから、好きなところ言えよ」 「……じゃあ、映画館…」 「映画?お祝いなのに?」 「……普通の事が、したいんだ。皆が普通にしている事」 「…うん、分かった!じゃあ何を見るかは中で決めよう。ほら、早く家入るぞ」 大輝の手を自然に掴んで家の中へと入っていく安藤。 その後ろ姿を見ながら、大輝は幸せを噛み締めていた。 [前へ][次へ] [戻る] |