小説 1 ある、雨の日。 「……犬」 俺は犬を拾った。 うちのボロアパートの前に置かれた、これまたボロい段ボール箱の中で、雨に打たれながら震えていた小さな犬。 多分、雑種。 特に目立った特徴はないけれど、その目だけは妙に色素の薄い不思議な色合いをしていて、とても印象的だった。 自分にネーミングセンスなんてものがないことを理解している俺は、素直にソイツに「ちび」と名付けた。 だって、小さいし。 ちびは、よく食べよく眠った。 なのにちっとも大きくならない。 まぁ、こんなに狭いうちのアパートで、あんまり大きくなられても困るんだけど。 寝るときは俺の布団で一緒に眠った。 ベッドなんて大層なもの、うちにはない。 壁が薄く、暖房器具はこたつしかない俺の部屋でも、ちびを抱き締めているととても暖かくてよく眠れた。 俺が大学に行くときは、ちびはきちんとおとなしく留守番する。 うん、いい子。 夕方部屋のドアを開けた瞬間に「おかえり!」とでも言うかのように飛び付いてくるちびは、俺の平凡な毎日にちょっとした潤いを与えてくれた。 [次へ] [戻る] |