捨てられないモノ

足の踏み場もない、というのはまさにこのことだ。

久しぶりに恋人の家に遊びに来たら、…雑誌は床に乱雑に置かれ、服もぐちゃぐちゃ。
菓子も出しっぱなし。

唯一座れる場所もベッドのみ。
こいつは今までどうやって生活してたんだ?
やはり同棲した方がいいのかな…なんて考えている俺をよそに、

「はーい、お茶だよー」

と言ってオレンジジュースが入ったコップを持ってきた。
いや、お茶じゃないし…。

「さんきゅー。…お前さ、せめて俺が来る日ぐらい掃除したら?」
「うーだって、どれも捨てられないものばっかなんだもん!」
「いや、そこは整理してさ。これじゃあ生活しづらいだろ?」

彼はここで寝起きして、飯を食べ、大学に行くんだ。
当人としたらこの光景は当たり前かもしれないが、いつ衛生上に問題が起きるか分からない。
部屋を綺麗にしておくことは、決して悪いことではない。


「いや、駄目だ。俺も手伝ってやるから掃除しよう」
「えー………本当に、どれも捨てられないんだよ…」
「二人でさ、少しずつ整理していこう?なんなら今日泊まってやってもいいからさ」
「…泊まってくれるのは嬉しいけど…でも、絶対片付かないよ?」
「なんだ、その自信は…」

子犬のように目をうるうるさせて見つめないで欲しい。
部屋を掃除することはお前のためでもあるんだぞ!
ここは心を鬼にして取り組まねばならないな。


と一人決意している中、当の本人は、

「本当に、無理だもん。だって、この雑誌もこの服も、このお菓子も…一緒に買ったやつなんだよ…」
「え?」
「これ、全部お前と一緒にいた時に買ったやつなんだよ!だから、捨てたくない…お前との思い出も捨てちゃう気がして、…嫌なんだ」

確かに雑誌も服も菓子も、俺が一緒の時に買ったやつだ。
だからといって捨てたら俺との思い出がなくなるって?
俺達の関係はそんな簡単に壊れないっつうの!

「ばか!んなわけあるか!モノがなくなったって、俺はいつまでもお前と一緒だよ!」
「…本当?」
「俺がお前に嘘つくわけないじゃん…だから掃除、しよう?」
「…分かった…でも、もし今日中に掃除が終わっちゃったとしても、泊まってくれる?」
「勿論。最初からそのつもりだったし」

少しやる気を見せたのが、ちらばるモノを分別しはじめた。


俺との思い出を捨てるのが嫌だ…か。

可愛いこと言ってくれるじゃん。

やっぱ同棲しよう、って言ってみようかな。




可愛い恋人が顔を真っ赤にして頷くまで、あと数時間。


END



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