花穂B
「…なんで」
「うん？」
「なんで、名前知ってるのに、ちゃん付けで呼ぶん、ですか…」
「だって可愛いし」
「僕は、嫌だって、いつも、言ってますっ！」
本当に、嫌なんだ。
大切な、大好きな先輩だからこそ、ちゃんと名前で呼んでもらいたいのに。
先輩は付き合い出す前から、今現在も、僕の名前を呼んでくれる事はなかった。
可愛いからって、そんなの…。
「…そんなに、嫌？」
「…嫌、です」
「どうして？」
「…女の子、みたいだから」
「えーだから可愛いって「僕は男です！」
「うーん」
僕のこの思いは我侭ですか？
そんなことないよね？
好きな人には、ちゃんと名前で呼んでもらいたいよね？
そう、だよね…。
「…花穂のね…名前の由来も、誕生日も生年月日も血液型も出身地も趣味も得意な教科も不得意な教科も誰を好きなのかも、俺は全部知ってるよ」
「っ！」
「それでもね、俺、『花ちゃん』って呼びたかったんだ」
「…僕が可愛いから…ですか？」
「勿論、それもあるよ。でもね、…覚えてるかなー俺が花ちゃんを不良から助け出した時のこと」
「覚えて、ます」
「その時ね、俺前から花ちゃんのこと知ってたじゃん」
「…はい、そうでしたね」
「その時ね、俺が『花ちゃん』って呼んだ時花ちゃん、すっごく可愛く照れててね。もう俺、それで心臓打ち抜かれちゃったの！」
「…えっ」
「それからまだ付き合ってない時も、『花ちゃん』って呼ぶと照れつつも、俺を見てくれる目がすごくキラキラ輝いててね。だから俺、花ちゃんのこともっともっと好きになったんだよ」
知らなかった…そんな、まぁそりゃあ憧れてた先輩に、例えあだ名でも呼ばれれば嬉しい。
まさかそんな理由があったなんて…。
「でも、『花ちゃん』って呼ばれるのが嫌なら、今日から『花穂』って呼ぶね」
「え…あ、はい。…そっちの方が、いい、です」
「そう。分かった。今までごめんね『花穂』」
「っ！？」
まずい…。
なんか、あれ、先輩に名前呼ばれると照れる。
え、てかドキドキしちゃうんだけど！
あれ、ど、ど、ど、どうしちゃったの僕！
「花穂？」
「えっ！いや、あの、その、な、な、何でもないです！」
「いやいや、何でもなくないでしょ」
「ほ、本当に何でもないです！」
「本当にー？花穂」
だからー不本意に名前、呼ばないでー！
…あれ。
さっきと言ってる事、違くない？僕。
『花ちゃん』って呼ばれるのは嫌で、
『花穂』って呼ばれるとドキドキするって…そんな…。
「…ブハハハ！！は、花ちゃん超ー顔真っ赤！！可愛いー！」
「ちょ、か、また可愛いって！花ちゃんって呼ばないでください！」
「えーでもさー『花穂』って呼ぶと顔真っ赤になるじゃん」
「そ、そんなこと…」
「嘘つきだなー顔に書いてあるのに」
「か、書いてないですよ！」
ひー顔が確かにさっきから赤いのは気づいてたけど、気づいてたけどさ！
もう、嫌ー僕のバカー！！
「じゃぁ、これからは『花穂』って呼ぶ練習しつつ、普段は『花ちゃん』のままにしようか」
「えっ！？」
「練習して、花ちゃんが慣れたら…毎日『花穂』って呼んであげるね」
「そ、そんなー」
「あははーこれからが楽しみだなー」
やっぱ、僕、先輩には勝てそうもありません。
うぅぅ、いつか、照れずに先輩に名前、呼んでもらいたいよ。
頑張れ、僕！！
END
