黄蝶
16
関東大初戦。
俺たちはセンターコートで試合を行った。
ボールの感覚が、音が、俺を試合に集中させる。
「ぶちょーー、今日も絶好調ーー」
ハーフタイムに竜磨が軽い感じで言う。
「翡翠には緊張とかないもんな」
青井も十分緊張感なく告げた。
『俺だって緊張くらいするさ。ま、今は良い感じの緊張感で体がよく動くよ』
俺は試合中でも和やかなこの空気が好きだ。
皆で試合をしている。
俺は1人じゃないのだと思える。
蓋を開けてみると、試合は大差で勝っていた。
『・・・ッ!!』
応援席に挨拶をし顔をあげると、席の一番後ろ、そこよりももっと後ろ。
壁に寄りかかるようにしてこちらを眺める男と目が合った。
見覚えがある顔。
他は遠くてあまり見えないのに、男の顔だけはハッキリと見えた。
俺と男の間にはたくさんの人がいるはずなのに、隣には仲間たちがいるはずなのに、まるでこの空間には2人しかいないような感覚だった。
なんで・・・
男が口を開く。
音は届いてないはずなのに、何を言ったのかがわかった。
ー み つ け た ー
確かに男の口はそう動いた。
背筋が凍る。
冷や汗が流れる。
鳥肌がたつ。
それは憎しみ。
そして、恐怖。
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!