黄蝶
6
竜磨に連れられてきたテニスコートではすでに試合が始まっていて、不二が観客の視線を集めていた。
『あれって不二の本気?そうは見えないけど』
「うわッ!!!って、翡翠!何してんの!?」
不二の試合を見て思ったことを口にすれば、面白いほど大きな反応で菊丸が声をあげ、それに続くように周りの視線が一時俺に集中する。
俺の言葉に周りはキョトンとしていた。
意味がわかっていないのだろうか?
それとも、俺が言ったから?
だって見ればわかるだろ?
まるで遊んでいるようだ。
きっと不二はまだ何か持ってる。
『何って、応援じゃん』
不二から目を離さず菊丸の問いに答えれば、彼は俺に勢いよく抱きつき、そのまま試合を観戦しだした。
重いんだけど・・・。
『あれ?リョーマ君は?』
そう言えば、と、俺に応援に来るように言った本人がいない。
「越前なら、ベンチコーチしてますよ」
そう言ってコートの中のベンチを指差した桃城君の指先を追っていくと、そこには帽子をかぶってレギュラージャージを着たリョーマ君の後姿があった。
「って言うかー、状況がよくわかんないんだけどー。どーなのー?勝てるのー?」
竜磨の質問は俺も気になっていたことだ。
テニスは個人戦しかしたことがないため、団体戦のルールを知らない。
「試合はダブルス2試合、シングルス3試合の合計5試合で、先に3勝した方が勝ち。で、今はダブルスが1勝1敗で、シングルス3が試合続行不可能で引き分け。で、不二先輩がシングルス2をやってるってわけ」
説明をしてくれたのは桃城君。
彼と竜磨は実は同じクラスで、結構仲がいいらしい。
知らなかった。
「ところで近江。お前、テニス経験あるのか?」
突然乾に話しかけられギクリとする。
さっき咄嗟に口走ったのがいけなかったのか。
『それは後で良いじゃん。ほら、応援しよ?』
なんとかはぐらかしてはみたものの、乾は眼鏡を輝かせながらノートに何やら書き留めていた。
え、何それ・・・。
何書いてんの?
怖いよ?
「気にしないほうがいいッスよ。あれ、乾先輩の癖っすから」
桃城君に言われて、気にしないように目線を試合に戻すと、一瞬不二と目があった気がした。
え?
試合中だよ?
ないない・・・。
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