黄蝶
4 side:奏斗
「兄さんはテニスをやめたよ、郁夜」
僕は彼に鋭い目を向け、強い口調で言い放った。
「なんだ、覚えてるじゃん。昔みたいに呼んでくれないの?郁兄って」
この、人をバカにしたような笑顔は昔とまったく変わっていない。
凍えるように冷たい目も。
「あんたを兄だなんて思いたくない」
「そ。まぁ、別に俺は構わないけど。そんなことより、翡翠はどこにいるの?」
「知らない。知ってたとしてもアンタなんかに教えないし、ここで待ってても兄さんは来ないよ」
だから、早くこの場を去れ。
口調とは裏腹に内心では焦りが募っていた。
隣の体育館では、今日バスケの開会式が行われている。
兄さんも来ているはずだ。
会わせるわけにはいかない。
今度こそ、僕が兄さんを守らなくちゃ。
「あんた誰?」
そこで間に入ってきたのは切原先輩。
お願いだから余計なことは言わないで。
この人を早くこの場から遠ざけなくちゃいけないのだから。
そんなこと先輩に対して言えるはずもなく、僕は黙って2人のやり取りを聞いているしかなかった。
僕たちに気づいたのか、レギュラーの先輩たちも足を止め、こちらを見ている。
特に真田副部長なんかは、眉間にシワが・・・。
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