黄蝶
1
ついに関東大会が幕を開けた。
「それにしてもー、翡翠先輩のせんせー、かっこよかったッスねー」
俺は今、バスケの開会式が行われていた体育館からほど遠くないテニスコートに向かっていた。
決してリョーマ君との約束を果たそうと思ったわけではない。
隣で独り言を言っている、このやる気があるのかないのかわからない男、轟竜磨に連行されているのだ。
彼の言うせんせーとは、今日俺が開会式でやった選手宣誓のことだ。
決して先生のことではない。
抽選で1番を引いてしまった俺は、その大役を担わなくてはいけなくなった。
まぁ、自分で引いたクジだから文句は言わない。
「他校のマネージャーの子とかー、応援来てた子たちー、キャーキャー言ってましたよー」
で。
そんなことはどうだっていい。
なぜ竜磨は俺を連行している。
俺は帰ろうとしたんだ。
今日は開会式だけだったから、帰って練習しようと思っていたのに。
「そんな睨まないでくださいよー。俺だって頼まれたんですからー」
俺の心を読んだのか、雰囲気を察したのか(恐らく後者だろう)竜磨が頭を掻きながら弁解する。
『頼まれた?』
誰に?
何を?
「不二先輩にー、初日翡翠先輩連れて応援来てねってー。ちょー怖かったっすよー、あの笑顔ー」
うん・・・。
君に非はないよ。
俺だって周助は怖い。
ってか俺に言えばいいのに。
席前なんだぞ!
竜磨に頼むより近いだろ!!
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