黄蝶 10 『とりあえず、昼の仕事はこれだけ』 簡単でしょ、と付け加え告げれば、彼はそっけなく返事をした。 読んでいた本を貸してしまったため、また暇になる。 『越前君、テニス部なんだよね』 「そうっす」 隣の彼も暇そうだったので話しかけてみる。 といっても話題がなかったため部活の話をするしかなかった。 そっけない返事に、無愛想だなぁ、とも思うが、嫌いではない。 『テニス、楽しい?』 「当たり前」 俺は何を聞いているんだろう。 自分で聞いて後悔している。 「先輩は・・・、バスケ楽しいの?」 『・・・、楽しいよ』 彼からされた質問は、俺がしたのと同じもの。 確かに最初は楽しさを感じてる余裕なんてなかった。 でも、次第に楽しくなってきたのは事実。 今の俺はバスケを楽しんでいる。 それに嘘偽りはない。 「ふーん」 自分から聞いたのにそっけない彼の返事に、俺はつい笑ってしまった。 面白い子だ。 本当、嫌いじゃない。 生意気なところが弟みたいで。 確かアイツも今年入学したはずだ。 元気でやっているだろうか。 驚きの表情を見せる越前君の存在を無視し、俺は物思いにふけるのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |