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阿部君が観たいと言ったのは、今流行りのアクション映画だった。
この頃よくテレビのCMなんかで宣伝しているやつで気になっていた。
オレも。



「思ってたより空いてんな。」



「そ、だね。」



「どーした?
なんかテンション低くねぇ?」



「そんなコト、無いよ!」



阿部君はまだ訝しそうにしてたけど、オレはさっさとポップコーンとジュースを買って上映室へ入った。
部屋はまだ明るくて、人はまばらだった。
オレは一番後ろの席に座ったら、ジュースだけ持った阿部君が隣に座った。



「映画始まる前ってさ、予告あんじゃん。
アレ、いつも長ったらしくね?」



「オ、オレは、“これから始まる”って感じがして、スキ。」



「ふぅん。
あ、ポップコーン少しちょーだい。」



「う、うん。」



阿部君が、ポップコーンを摘んで食べる。
オレは、オレの分まで無くならないかな。と、ちょっと心配しながらケータイを開いた。
電源を切ったそれは真っ暗な画面になってオレの顔を映していた。
すると、段々部屋が暗くなってきて、それと同時にスクリーンが明るくなっていく。



「…っ!?」



阿部君が、いきなりギュッとオレの手を握ってきた。
薄暗いし、あんまり人がいないからって…それでも、恥ずかしい。
解こうと手を引こうとするけど、やっぱりダメだった。
手汗も掻いてきたし、阿部君、キモチ悪くないのかな。



でも、離してくれないだろう。
前に来たときも、そうだったから。



(…あ、れ?)



・・・・・・
前に来たとき?



―――誰と?
(阿部君、と。)



―――どこに?
(映画を観に…)



―――いつ?
(……、さんかげつ、まえ…だ。)



オレは、3ヵ月前、阿部君とこうやって映画を観に来た。



“それ”を思い出せる。
どっと冷や汗が出てきた。だけど、映画に夢中な阿部君は気づかない。
オレは映画そっちの気で考える。
いつから思い出せていた、のか。



(…わから、ない。)



わからない、けど。
過去を思い出そうとすることをしなくなったのは泉君の家に泊まって、阿部君に電話で呼ばれたあの日の夜からだった。
だけど、20歳のオレと阿部君が日々ケンカしていた理由が…オレが、別れようとしていた理由が思い出せない。



(一番、重要なコト、なのに。)



ぐるぐる考えてる間にも映画はクライマックスを迎えていた。




[*返球][送球#]

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あきゅろす。
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