13
ケータイは鳴らない。
もう夜中の2時だ。
寝なきゃいけないのに、連絡あったらどうしよう、って寝れない。
布団に入ったときは泉とお喋りしていたから気にならなかったけど、そのうち泉君がウトウトし出して遂に寝ちゃった。
オレは依然、目が冴えたまま。
「…やっぱり、帰ったほうがいいのかな…」
さっき阿部君に電話をかけたら、電源が切られているらしくて繋がらなかった。
だから余計、気になる。
(阿部君は、「帰ってきて」しか言ってなかったけど、もしかしたら熱とか出してるのかもしれない。
具合悪くて、それで帰ってきてほしいのかも。)
そう一回考えちゃうと、頭の中で阿部君がどんどん重病人になっていく。
オレがいない間に熱出して、苦しくて動けなかったら…
それとも、骨折とかしてて痛くて動けないとか…
オレが帰らなかったせいで、阿部君が死んじゃったら…
(…帰ろう)
思いたったら即行動。
布団をガバリと跳ね上げて身支度を始める。
電気をつけてないから、ちょっと大変だ。
持ってきた荷物を纏めて、泉君にはメールを打って置こうとケータイを開けた。
「帰んの?」
ビックリして声をあげそうになったけど、堪えた。
いつの間にか泉君は起き上がっていて、オレのほうを見据えてた。
「う、ん。」
そう答えると、一層泉君の顔が険しくなった。
そして、オレの手を掴んでギュッと握った。
「見てらんねぇよ。」って泉君が呟いたけど、なにに対してかわからなかった。
「お前、阿部が好きだろ。
恋人になりたいとか、そういう意味で。」
「うぇ!?どうして知って…」
はっ、と口をつぐんだ。
「やっぱり」って顔してる。
引っかかってしまった。
だけど泉君はオレのことを気持ち悪がるわけでもなく、話を続けた。
「外見がどうだろうとお前は高校3年生の三橋廉なんだ。
20歳の三橋の責任まで負う必要ねぇ!」
「…っ、そうだけど…!
阿部君が、オレを頼ってるんだ。
熱出しちゃってるのかも、しれない。」
そんなこと無いと思いながらも、想像上の阿部はもう虫の息でオレが帰ってくるのを今か今かと待っている。
本当に、そうだったら。
「泉君、ごめんね。
オレ、帰るよ。
阿部君のこと、心配なんだ。」
「…わかった。
夜道、気をつけろよ。」
「うんっ!」
オレは、泉君のアパートを出て、駆け出した。
[*返球][送球#]
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