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「理由ったってなー
なぁ、やっぱ阿部呼んでみっか?
ウゼェけど。」



「だ、ダメっ!
絶対、ダメだっ!」



予想してた回答だったらしく、泉君は「だよなぁ」と言った。
阿部君がオレに全部隠さず教えてくれてるなら、ここにオレはいないし、阿部君の様子が変なのも怖い。
それに阿部君には嘘ついて泉君の家に来ちゃってるし。



「阿部く、本当に今、オカシイんだ。
オレを、スゴい束縛する。」



「あぁ、さっきの紙にも書いてあったな。
阿部の消息不明の彼女のせいだっけ?」



「うん。」



泉君はさっきオレが渡した紙を手に取りながら、眉をしかめた。



「…でもなぁ、オレ、阿部に彼女がいるなんて聞いたことねぇぞ。」



「え?」



「いやマジ。」



頭の中で色んなことがグルグルと回る。
記憶を無くした自分、しかも同居してることを後悔してる。
過去を教えたがらない不自然な阿部君の態度。
消えた阿部君の彼女とその存在。




―――脳裏にチラつく、誰かの顔




「っあ、何か、思い出せそ、」



「三橋?大丈夫か?」



もうちょっと。
もうちょっとで全部思い出せそうな、この感じ。
モヤモヤする。



「…ダメ、だ。思い出せない。」



「ムリすんな。
ゆっくりでいいから。」



「うん…」



繋がらない点と点が苦しい。
別に二年ぽっちの記憶なんて、日常生活に支障が出るわけでもないし(あ、でも大学の勉強は大変かも)無理に思い出さなくても平気な気がする。
18歳のオレには、今心の中に高校生活の思い出がキラキラと輝いているんだから。
だけど、オレが記憶喪失になったことで、オレ以上に阿部君が不安定になってる。
なぜだか、わからないけど。



「―――ひとつだけ、阿部の彼女に心当たりがあんだけど。」



「う、ぉ!」



泉君はなんだかためらってるようだった。
視線を泳がせて、「えーと、」とか言っている。
話したくない様子の泉君に、オレだって阿部君の彼女さんのことなんて聞きたくないと思った。
だけど、聞かなきゃいけないんだ。



「泉君、教えて、よ!」



「あー…、いや、わかんねぇけど…
つか“彼女”じゃねぇし…
……あのな、」



「うん、」



「三橋、お前だよ。」



「…オ、レ?」



「阿部の彼女、お前かもしんねぇって話。」




[*返球][送球#]

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