vol.4
いつから三橋は特別だった?
記憶を辿ってみる。
泣いてるのを見た時?
雑用係と言われた時?
いや、違う。三橋と、出会ったその瞬間からだ。
(オレ、一目惚れしてたのか…)
自室のベッドの上でのたうち回る。
もの凄く気恥ずかしい衝動が身体を襲った。
むずがゆくて、落ち着いてなんかいられない。
「オレは、三橋が…好き…なんだ…」
くちにしてみて、また顔に赤みが増す。
それは、阿部らしからぬ行動だった。
(明日から、三橋の顔見れねーかも。)
その日の夜、また阿部は寝付けなかった。
「あっ、阿部!!おっはよ〜」
「はよ。」
水谷が目を見開く。
「え、阿部がオレに真面目に挨拶を返した!」
「あー…そうだな…」
阿部はそんな水谷と花井の会話を無視して席についた。
昨日、書類整理をほっぽりだして帰ってしまったので、また呼び出しされるかとソワソワしているのだ。
(呼び出しきたら、どんな顔して話そう…)
だが、何時間っても放送はかからない。
そして、本日最後の授業になってしまった。
授業は体育なので、ジャージに着替えて外に出る。
(…何で呼び出しこねーんだ?)
そう考えて、自分から会いに行くのもいいんじゃないかと阿部は思いつく。
「阿部ー!
男子はスタート位置着けってー!」
水谷が阿部を呼ぶ。
阿部はヘイヘイと言いながら、走り出そうと踏み出した。
(…あれ?)
目眩と、ヒドい眠気が身体を引きずる。
もう、その時には阿部は倒れていた。
「…?」
目を覚ますと、三橋が心配そうに阿部を覗き込んでいた。
その近い距離に、阿部は手を伸ばした。
三橋の顔の輪郭をなぞると、三橋は真っ赤になった。
ボンヤリとそれを見て、阿部は更に引き寄せた。
(もう少し――…)
「三橋先生〜、阿部のバック持って来ました〜」
大きな音を立ててドアを開け入ってきた水谷に、三橋は驚いて瞬時に阿部から離れた。
「あれ?三橋先生、なんか顔赤くない?」
「赤く、ないですっ!」
「そーお?
あ、もうオレ部活行かなきゃだから。」
そう言って水谷は布団を被っている阿部の腹の部分にバックを置き、保健室を出て行った。
「…寝不足で倒れたんだよ。」
「あ、そうなんスか。」
倒れるなんて、情けないと思いつつも内心三橋と会えたことに喜びを噛み締めていた。
「オレ、車だから送ってくよ。」
「本当ですか!?」
本来なら平気だと断るだろう。
だけど、相手が三橋なら話は別だ。
いそいそと支度を始めると、三橋は眉をしかめた。
「阿部君…なんか昨日と違う…?」
三橋にそう問われて、阿部は固まった。
アピールしたいけど、まだ気づかれたくない。
勝算があってこそ告白ってのはするもんだ。
「べ、別に普通っスよ。」
三橋はまだ訝しげだったけど、阿部は何事もないように保健室を出た。
三橋が車を回して、阿部を助手席に乗せる。
(…っ!
三橋の匂いがする…)
ポーカーフェイスを貫くが、内心はてんやわんやの大騒ぎだ。
想像してたより、運転席と助手席の間は近くて、三橋の息使いまでが聞こえるほど。
(…ヤベ、思ってたより重症だ。)
[*返球]
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