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夢幻未来
C
――翌日。


「……まずい」


凛花はぽつり、と呟いた。


その隣に居た神楽と向かい側のソファーを占領してぐうたらしている銀時がそれに反応する。

二人とも珍しく顔が険しい凛花を不思議そうに見た(銀時にいたってはダルそうだ)。

「何がアルか?」

「昨日のパフェなら美味かったぜ。今日の朝飯もだけどよ」

「銀ちゃんてめー、私が散歩に行ってる間に凛花にパフェ作ってもらってたアルか」

「羨ましいだろー、もうとっくに消化されて腸の中だけどな」

「出せヨ」

「…え?ちょ、神楽…ギャァァアアア!!」


銀時の腹に神楽のボディーブローが入るのを横目に、凛花はため息を吐いた。

(これは冗談抜きでまずいなぁ……)


その手元には家計簿。

その収入を書き入れる欄には0が続いている。


――それもそうだろう、基本万事屋に依頼は来ない。

本当にたまにしかお金が大量に入る依頼は来ない上に、たまに来る猫探しの依頼はあまり金にはならない。

神楽の食費が異常にかかるこの万事屋では、それらの金は全て食費に消えていた。

「困ったなぁ…」

家賃代に加えて電気代、ガス代諸々の生活代。

それに新八や神楽へのお小遣い。

他にも使う事があるだろう。

今までは凛花が辰馬から貰ったお金でなんとかなっていたが、それももって今月中という所。


(これはいよいよ私も働かないといけないかな…)

どこか時給いい所探そうかな…。

900〜ぐらいの。

このままだと意地汚い万事屋の皆は来月あたりゴミでもあさり始めそうだ。


ため息を吐きつつ、ぱたん、と切なくなる家計簿を閉じて笠をかぶり、出掛ける支度をする。

「凛花、どっか行くのか?」

それに気付いた銀時が腹部を押さえながら聞いた。


いつも銀時は…、いや、銀時だけでなく他の万事屋の面子も必ず凛花の出掛ける先を聞いてくる。

勝手にどこかに行ってしまわないか心配してるのかもしれない。

銀時の場合は凛花への甘さから来るただの過保護もあるのだろうが。


それを分かっているからこそ、凛花も苦笑を零しはすれど煩わしく思う事はない。


「バイト探し。ついでに買い物行ってくるね」

「じゃあついでにイチゴ牛乳頼むわ」

「私は酢昆布がいいアル!」

「はいはい。じゃあ、行ってきます」

行ってらっしゃいアル、気ィ付けろよー、の声に送られて家を出た凛花は僅かに口元を緩めつつ歩き出した。




――そして、その後。


「さっき凛花が見てたのはコレか」

凛花が出ていった万事屋では、机の上に置かれたままの家計簿を二人が見ていた。

「私のマミーも家計簿つけてたネ」

「…ちょっと見てみるか」

ぱらぱらと家計簿をめくる。

その日付は凛花が万事屋に入った日からになっていて、いつから万事屋の日常が変わったのかを明確に表していた。


「銀ちゃん、ここの収入って書いてある所0ばっかりアル」

横から覗き込む神楽が指した収入の欄には延々と続く0の数字。

「……。だから凛花が急にバイト探しなんて言い始めたっつーわけか」

「凛花がバイト始めたら一緒に遊ぶ時間が減っちゃうアル。仕事しろよこの腐れ天パが」

「なんだと、お前こそ食う量減らしやがれ」

「私は成長期だから仕方がないネ」



ガツン!



「ぬぉおおお……!」

飄々と返す神楽を一発殴り、銀時は流れるようなその文字を見やった。


(………)


「……おい神楽、お妙ん家行って新八呼んで来い。ハム子だかウンコだかを探して欲しいって依頼、受けるぞ」

「!了解アル」


ダダダダと足音をたてて出ていった神楽を見送って、銀時は新しく万事屋の机の上に飾られる様になった写真を手に取った。


「――…ありがとな」

本人を前にしては決して言わない言葉を、写真の中で神楽と新八に挟まれて笑っている彼女に向けて言った。




**********




「んー…、あんまり時給良くないなぁ」

凛花は大江戸スーパーの窓に貼ってあるチラシにガンをつけた(ちなみに完全な八つ当たりだったりする)。


(600〜とか舐めてんのかな)

後三百円ぐらいは高くしてくれても罰は当たらないと思うのだけれど。

こんなに安いと入るバイトも入らない気がする。

というか、手に持ったこの荷物が重すぎて死にそうだ。


ビニールの袋が手に食い込んでいるのを見て、荷物持ちに銀時を連れてくれば良かったと少し後悔する。

…もちろん持てないわけではないのだが、重いものは重いのだ。


「あーあ…、大江戸マートの方はバイト募集してないみたいだったし…。無駄足だったかな」


もうすぐ昼だ。

新八が居るから食事には困らないだろうが、あまり帰るのが遅いと心配されるかもしれない。

特に銀時に。


「どうしようかな…」

バイト探しと言った手前、収穫なしでは帰りにくい、とそう思いながらため息を吐く。

(…なんだか母親にでもなった気分ね)

……ん?アレ、おかしいな。

私今18才のはずなんだけどな。



――と、そう激しく自分の年齢に疑問を感じはじめた時だった。

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あきゅろす。
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