夢幻未来
B
「……ねぇ凛花ちゃん、何コレ?」
買い物から帰ってきた凛花に食材の片付けを手伝わされている銀時は思わずそう聞いていた。
つまみ上げているのは、三袋に全て同じ物が入っているらしい白い粉。
凛花はそれを横目で見て、あぁと納得した様な声を出した。
「銀時に頼まれた糖分だけど?」
それが何?
そう言いたげなその言葉を聞いた瞬間、銀時は床にそれを叩きつけた。
「オィィィィ!!俺が頼んだ糖分っつーのは甘いお菓子の事だからね!?誰がまるまる糖分買ってこいなんて言ったよ!!しかもコレ塩じゃねーか!」
「わがままだなぁ、銀時は。どっちも同じ白い粉じゃない。それにほら、よく居るでしょ?砂糖と塩間違えて入れちゃう人」
「お前は間違えたんじゃなくてわざと買ってきたんだろうが。つーかやめてくんないその表現?なんかヤの付く人が売買してる危ない薬みたいだから!!」
「人間みんな心の奧はヤクザの様に真っ黒なものだよ」
「それは凛花だけだな」
そう言うと返事の代わりにツナの缶詰めを投げ付けられた。
銀時は難なくそれを受け取って棚にしまうが、更に凛花はイチゴ牛乳を買い物袋から取り出すとそれを定春専用の大きな皿にどばどばと注ぎ始めた。
「凛花ァアアアア!!?おま、何しちゃってんの!?」
「定春ー、少し早いけどご飯の時間だよー」
「あ"あ"ぁぁぁ俺の糖分んんん!!」
銀時の必死な制止を無視して凛花は定春に餌(イチゴ牛乳)をやりに外に出ていった。
「………」
イチゴ牛乳の入っていた二リットルのパックを手に取ると空のパック特有の軽さを手に感じて、銀時はガックリとうなだれた。
「凛花さん容赦ないですね……」
その一連を見ていた新八が定春に餌をやる凛花に付き添って外に出ながらそう言うと、凛花は小さく笑った。
「今日はね、いいのよ」
「?どういう意味ですか?」
だが凛花はそれに答える事無く、ペロペロと美味しそうにイチゴ牛乳を舐める定春を見やるだけだった。
「(こうゆう時の凛花さんは大体何か考えてる時なんだよなぁ…)そういえば、ニュース見ましたか?なんか今日時計塔が爆発したらしいですよ。凛花さんが丁度買い物に行ってる頃の時間にあったみたいですけど…、大丈夫でしたか?」
「……そうなんだ。うん、全然平気だったかな(やったの私だもん)」
あはは、と渇いた笑いを溢す凛花を不思議そうな顔で見る新八。
だがそのニュースには続きがあるらしく、新八は更に続けた。
「なんでも攘夷志士が爆発する薬品を込めた弾で時計塔を爆発させたらしいですよ。凛花さんも巻き込まれない様に気を付けてくださいね」
「!…そうなんだ。心配してくれてありがとう、新八くん」
そう言うと新八は少し照れた様な顔をしていたが、凛花は目の前に居る新八ではなく、昼間公園で会ったあの真選組の彼を思い浮かべていた。
(あの人……)
あの黒髪の人。
あの人がそんな情報をマスコミに流したのだろうか。
消音器を付けていても時計塔の近くに居た人なら銃声が聞こえていたはず。
納得する説明をするのも大変そうなのに。
(…鶴の恩返し的なアレ?)
義理深い人なのだろうか。
そんな面倒な事、普通はしないのに。
「ふふ…」
「?どうしたんですか、今日。なんだかご機嫌ですね」
「うん。いい事あったの」
そう言って笑う凛花は本当に楽しそうで、新八もつられて小さく笑った。
――そして万事屋の中に戻ると、新八は真新しいパフェ用のカップが隠される様にしてキッチンに置いてあるのを見付けて、さっき凛花が言っていた事の意味を理解したのだった。
それに気付いていないらしく、部屋のソファーでいつも以上に死んだ魚の目で寝転がる銀時からはどこか哀愁が漂っているが、それを華麗に無視して凛花は台所に向かう。
イチゴ牛乳を取られながらも銀時は律儀に食品の片付けをしてくれていたらしく、キッチンは綺麗に片付いていた。
「………」
パフェのカップを見付けた新八に内緒にしておく様に合図を送ってから、凛花はそっと銀時に近付く。
――そして、思い切りその上にダイブした。
「ぐはっ」
予期していない衝撃に銀時は呻くが、凛花はそれに構わずその胸元に顔をうずめた。
「銀時ー」
ふわふわ、と肌をくすぐる髪の毛に思わず口元をほころばせる銀時。
あぁ、このクセは昔から変わってねぇのか。
「……そんな事したって俺の機嫌は直らないからなー」
「死ねよクソ天パ」
「なんで急にそんなに辛辣になるの?アレか、今はやりのツンデレか」
「違うから」
死ねと言いつつも凛花は銀時から離れようとはしない。
…これも昔からだ。
Sのクセに、人一倍優しくて。
謝る事が苦手な凛花は喧嘩した時や反省した時、大体こうして抱きついてきていた。
ヅラなんかは抱きついてもらいたくて、わざと凛花に喧嘩をふっかけていた気がする。
今考えても馬鹿だろ、アイツ。
「機嫌直った?」
「…おー。しょうがないから直してやらぁ」
ぽんぽんと優しく頭を叩いてやると、そこでやっと凛花は小さく笑って起き上がった。
「ご飯何がいい?」
「パフェ」
即答した瞬間、凛花が棒読みしながら俺の肩を掴んだ。
「生野菜ですねーかしこまりましたー」
「スミマセン、調子に乗りました」
ミシミシと力を込められる肩に顔が引きつりつつもそう言う。
凛花は調子に乗りすぎなければ基本は手を下さない。
先に謝っておくのが利口だ。
だが変わらない彼女の様子は銀時に昔を思い起こさせて、思わず口元を緩めた。
(そこにあるのは昔と何も変わらない笑顔)
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