夢幻未来
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*****凛花視点*****
穏やかな春の日。
大分蕾の膨らんで来た桜はもうすぐ咲きそう。
「…咲いたら皆でお花見したいな」
万事屋のみんなと、後お妙ちゃんも誘って。
――昔みたいに。
そこまで考えてから私は苦笑を溢してゆるゆると首を振った。
(あぁ、ダメね…。桜を見てると感傷的になっちゃう)
…あの約束を思い出してしまうからなのかな。
『やれやれ、こんな時に花見たァな』
『まぁまぁ、たまには息抜きも必要じゃき。そう言わずに楽しむぜよ!』
『その通りだな。折角凛花がこうして美味い弁当を作ってくれたというのに、そんな事を言っては罰が当たるぞ』
『なんならお前は食わなくていいけどぉー?俺がお前の分も食ってやるからよ』
『んだとこのクソ天パ野郎!誰も食わねぇなんて言ってねェだろ。テメェは残りモンのカスでも食ってなァ』
『あ"あ"ぁぁぁ!!俺の卵焼き取りやがって!返せ!!』
『あーもう、まだあるんだから喧嘩しないの!次喧嘩したら二人は来年から弁当無しだからなコノヤロー』
『『すいませんっっしたァアア!』』
……あれは、今からどれだけ昔の事だったのだろう。
《来年》
それは来年の花見の暗黙の約束だったのに、それきりあの五人で花見をする事は出来なくて。
「元気かな、みんな」
各地にばらばらに散らばった仲間たちだけれど、いつかまたあの約束を果たせるのかな。
……ううん、果たせたらいいな。
私は小さく笑って空を見上げた。
うん、いい天気。
ねぇ先生、みんな、私は今銀時がやってる万事屋にお邪魔してるよ。
信じられる?
あの銀時が自営業してるんだよ。
私はあの戦いが終わってからこれ以上大切な物が出来ない様にしてきたつもりだけど、銀時の傍に居るとそれは嫌でも出来ちゃう物みたい。
神楽ちゃんや新八くん、ペットの定春にオーナーのお登勢さんとキャサリン。
それに、少し怖い所もあるけど新八くんのお姉さんのお妙ちゃん。
私の周りは毎日賑やかです。
「……あ、いけない。銀時におつかい頼まれてたんだ」
感傷に浸っていた私はハッとした。
食材の買い出しのついでにイチゴ牛乳と糖分になる物買ってきてって言われてたんだった。
…普段だったら絶対行かないけど、今日は砂糖が特売だからこうしてセールの時間に間に合う様に今歩いてるワケで。
もう糖分は砂糖でいいよね。
砂糖三袋ぐらい買って銀時の目の前に置いておこう、うん。
ドクターストップがかかってるっていうのに、週一どころか毎日(だってイチゴ牛乳だって糖分だからね)甘い物を摂取しようとする銀時は馬鹿だと思う。
だから食事は糖分0%を目指して頑張って作ってる私がたまに馬鹿らしく思えて。
でも、作るのやめてやろうか。
銀時にそう言うと「えぇぇぇ待て待て待て凛花!!俺凛花のご飯が無いとやってけないからね!…よし銀さんが悪かった、もう一日一回しか糖分取らないからァアア!」なんて必死で言って本当に糖分の摂取量を少しだけ減らした(一日一回の目標はよく破ってるのを見かける)から、私もついつい甘やかしてしまうのだけど。
――そんな事をつらつらと考えていると、いつの間にか大江戸公園まで来ていた。
人の無意識って凄い、考え事しててもちゃんと歩いてるんだから。
ここから大江戸マートまではもうすぐだし…、少し休憩して行こうかなぁ。
そう思ったら思い立ったが吉日、早速公園の中に入ってベンチを探した。
「あ……」
だ け ど!
そしたら真っ黒で独特のデザインの制服を来た誰かがベンチに座っているのが見えてしまって、私はつい顔を引きつらせた。
…え、あれ真選組だよね?
しかもあの制服、隊長格の人が着る様な制服に見えるんだけど…。
真選組がなんでこんな所で休憩してるの?
てか仕事しろよ。
そう思いはしたけれど、遠目からでもその人が私の片割れでない事はすぐに分かって変に安心した。
それにあれ…、もしかして寝てる?
さっきから頭が上下にこっくりこっくりしてる。
…なんだか、かわいい。
頬を緩ませた私は、その人の近くまで行く事にした。
勿論布を纏わせている笠はしっかりと被る。
「わ……」
近くで見ると、その人はかなり美形だった。
それなりに美形は見てきたつもりだけれど、この人はかなり格好良いの部類に入るんじゃないかな。
サラサラの黒髪に、整った顔立ち。
目は閉じているけれど切れ長だ。
……うちの銀時にひとつぐらい分けてやって欲しい。
世の中って不公平だね。
ちなみに銀時に対して失礼な発言だとか、そういう事は気にしない。
「ん……」
「!!」
そんな意味のない事をじーっと見つめてたせいかな、彼が小さく身じろぎした。
起きるかと思って少しヒヤヒヤしたけど、彼は顔を下へ向けたままだ。
「………」
…これ、起こした方がいいよね…?
隊長格の人みたいだし、真選組に恨みを抱いている攘夷志士もいるはず。
それに、春になって大分暖かくはなったけどやっぱり外でなんか寝てたら風邪をひく。
少し迷ったけれど、そう考えて私は彼の肩にそっと手を置いて軽く揺すった。
相手が銀時とかだったら叩き起こすのだけれど、知らない人が相手じゃそうも行かないもの。
「お兄さん、こんな所で寝てたら風邪をひきますよ」
「ん…、なんだよ母ちゃんもう少し寝かせてくれよ」
「誰が母ちゃんですかコラ。…ほら、寝ぼけてないで起きてください。風邪ひいても知りませんよ?」
一瞬ガクガク思い切り揺すってやろうか、と思ったけれど相手は初対面の人。
むくむくと沸き上がってくるその気持ちを抑えて、さっきより強めにゆさゆさと更に揺すると、そこでやっとその人は起きた。
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