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夢幻未来


「………」

「………」

川の土手に沿って歩く神楽と新八は無言だった。

聞こえるのは少し先を行く定春の吠える声だけだ。


――だけれど、何も言わなくても考えてる事は同じで。

「…ねぇ神楽ちゃん、凛花さん万事屋に居てくれると思う?」


ただその事だけだった。


「今日見てて思ったんだけどね、凛花さんは銀さんにとって大切な人だと思うんだ」


新八は凛花が話してくれた昔の話を思い浮べていた。

沖田の家に捨てられてからの、悲しい昔話。


(あれは本当の事なんだろうな)


…でも、凛花さんが抱えてる物はそれだけじゃない気がするのは気のせいじゃないはず。

僕らには踏み込んじゃいけない境界線があって、それは簡単に触れて良いものじゃない気がした。

ラインの内側に居るのは銀さんだけなのかもしれない。


でもだからこそ、

「だから銀さんに任せておけばきっと大丈夫だよ。ね?」

まだ少しの時間しか共にしていないが、神楽が凛花を気に入っている事に気付いていた新八はそう言った。

銀時と同じで凛花も人を惹き付けて離さない何かを持っているから、その理由はよく分かるのだ。



――すると神楽は定春のリードをグッと引きながら新八の方を見た。


蔑んだ目で。


「言われなくてもそんな事分かってるアル。近寄んなヨメガネ」

「…あれ、なんかデジャヴ?」

顔を引きつらせて立ち止まった新八を置いてスタスタと歩き去る神楽。


「…あ、待ってよ神楽ちゃん!」

それを慌てて追い掛ける新八に、神楽は前を向いたまま話した。

「きっと凛花、まだ私達に言ってない事あるネ。私昔の凛花知らない、それはしょうがないアル。だから銀ちゃんが私と新八追い出したのも分かるヨ」

「神楽ちゃん……」

「でも私、いつか話してもらえるぐらいに凛花と仲良くなるアル。それまではしょうがないから銀ちゃんに独り占めさせてやるネ」


そう言った神楽は真っ直ぐに前を向いていて、新八は小さく笑った。


そうだ。

話してもらえないなら、話してもらえる様になればいい。

ラインを踏み越える事が許されないなら、そんなラインはなくしてしまえばいい。


ただそれだけの事だったんだ。


それに気付いて、新八は自分の前を歩く少女を見やった。

(神楽ちゃんもいい事言うん……)



「あ、もちろん万事屋ヒロインの座は私のモンだけどな」

「オイィィィ!絶対凛花さんそんなもん狙ってねーよ!!せっかくいい事言ったと思ったのに台無しだよ!」

「凛花は大好きだけど、これだけは譲らないアル」

「だから狙ってねぇっつってんだろ!!どんだけ疑ってんの!?」


ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人。

気付けば、いつもの調子に戻っていた。



「はぁ……、帰ろうか」

「今日もまた卵かけご飯アルか?もう飽き飽きネ、これで卵かけご飯五食目アル。たまにはサラサラふりかけご飯食べたいヨ」

「小さいなオイ!」

そんなやり取りをしながらもリードを引っ張って定春を帰り道の散歩コースへと連れていく。


歩きながら、ふと新八は凛花と銀時のやりとりを思い出して呟いた。

「あぁ…、でも今日は凛花さんが居るし、奮発してくれるかもしれないね」

「銀ちゃん見栄っ張りアルからな」

「いや、そうじゃなくて…」


S方面で、の話だよ。


そう言えば納得した様に神楽は頷いた。


銀時は決してMではないが(むしろS)、凛花の黒いオーラーには適わないらしい。

「成る程!凛花なら銀ちゃんの寒い懐から金絞り出してくれるネ」

「その言い方は凛花さんが極悪非道の悪人みたいだからやめようか」

マンモスバーガー食べられるアルか、いやいやカンタッキーのフライドチキン食べられるかもしれないよ、と勝手に昼ご飯を予想しながら帰り道を歩く。

時計の針はもうすぐ一時を指そうとしていた。

既に家を出てから30分以上経っている。


「お腹すいたアル…」

「これで凛花さんが居なかったら恨みますよ、銀さん」


万事屋がある通りの角を曲がると、すぐ先に見えるスナックお登勢の店の看板。

そこまで行って、二人はある事に気付いた。


大きな犬を連れて二人してとある一室の窓をガン見している様子は激しく怪しいのだろうが、今はそんな事を気にしている余裕は無い。

「あれって……!」

「銀ちゃんやったアルか!」


――その二階にある万事屋の開け放たれた窓からは細い煙が立ち上っていて、そこからする美味しそうな匂いはそれが火事でない事を表していた。


「キャッホウゥゥ!!今日のご飯はカンタッキーなんて目じゃないアル!」

「うん、凄く美味しそうな匂いだね!」

二人は笑顔で顔を見合わせてから軽い足取りで駆け出した。



きっと迎えてくれるのは、


「ただいまアルー!」

「凛花さんがお昼ご飯作ってるんですよね?わぁー、楽しみだなぁ」


優しい笑顔。


「おかえりなさい新八くん、神楽ちゃん」


…そう言って笑う彼女の顔は確かに真選組の彼と似ているけれど、その笑顔は凛花にしか出来ない優しい包み込む様な笑顔だった。





((ようこそ、万事屋へ))

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あきゅろす。
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