夢幻未来
二
「あぁ、そうだ」
「!」
死んだ魚の様な目でそう言い放った銀時は、だが口調だけははっきりとした意思を感じた。
「確かにここに長居するなら、お前の兄貴と会わねぇでいるっつーのは無理な話だ。あの税金泥棒共はそこらじゅううろついてるしよぉ」
後半は冗談混じりに告げられたその事実に、凛花は首をふるふると横に振った。
まるで、小さな子供が駄々をこねるかの様に。
「……なら、どうして?私が片割れに会いたくない理由も全部知ってるのに…、どうして?」
――凛花は絶対に双子の兄である沖田総悟の事を名前で呼ばない。
それは昔からそうで、ずっと傍に居た銀時はその奥にある理由も感情も全て知っている。
……だが、それでも。
凛花の為に、これは言わなくちゃならない。
「いつまでもそんな風に逃げてる訳には行かないだろーが」
「別に逃げてなんか…」
「いーや、お前は逃げてんだよ。また捨てられるのが怖くて、だから大切なモンも出来ねぇ様に一ヶ所に留まらないんだろ」
「………」
無言で俯く凛花。
その小さく見える体を、眠れないと言っていた時に昔よくしてやっていた様にそっと抱き締めた。
「もう終わりにしようや」
「っ……、」
とんとん、と人差し指でその背中を一定のリズムで叩いてやる。
「もう10年近く逃げてきたんだ。そろそろ、逃げるのも終わりにしていいんじゃねーの?」
「…でも、」
「でもじゃねぇよ」
微かに腕の中の存在が震えた。
もう、断ち切ってやらなきゃならないんだ。
自分には後押しをする事しか出来ないけれど。
がんじがらめの鎖を解けるのは、凛花自身とその片割れだけだ。
「いい加減、前向いて歩け」
凛花にその言葉が届いたのかは分からない。
だが、泣きそうな顔をしてるんだろうって事は分かった。
「銀時は……、昔からそうだよね。相手の事を思いやってるのに、突き放した冷たい言い方しかしないんだから」
「生まれつきですぅー、どうせ銀さんは頭パーで冷たい男ですぅー」
「誰もそこまで言ってないから」
くすくすと笑う凛花。
…そう、これでいい。
彼女には笑顔が一番似合うのだから。
「俺達が認めた姫なんだ。もう向き合えるだろ?」
「そう、思う?」
「あぁ」
「……そっか」
ゆっくりとこくり、と頷いた凛花に銀時は満足気に頷いた。
「よし、んじゃあ手始めにパフェ作ってくれよ。後ジャンプ買ってきて」
「調子に乗んなあぁあ!血糖値あげたいの?それ以上パーになってどうするの?ねぇ?」
ゴッ
「ぐふっ…、んだよ、全然元気じゃねーか」
モロに裏拳を食らった銀時は唸るが、そんなものはまるで気にしていない様に凛花はキッチンの方へと歩き出していた。
「凛花?」
「……キッチンを使いやすい様に掃除するの。これから居候させてもらうんだから、料理ぐらいしてあげる」
「!……素直じゃないねぇ」
「うっさい。玉潰すよ?」
「………」
そしてキッチンからガチャガチャという生活感のある音がして、それから美味しそうな匂いがしてくるのは更に後の事。
「――お前だけに背負わせたりなんかしねーよ。俺も一緒に背負ってやらぁ」
そう呟いた銀時の声は何かが焼ける音にかき消された。
…だが、ご飯が出来るまでもう一眠りしようと目を瞑ったその口元が弧を描いているのを知っているのは、恐らく凛花もなのだろう。
(ただいまアルー!)
(凛花さんがお昼ご飯作ってるんですよね?わぁー、楽しみだなぁ)
(おかえりなさい神楽ちゃん、新八くん)
(万事屋に新しい仲間が増えました)
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