夢幻未来
一
「んで?」
ようやく凛花からの手当て(イジメともいう)が終わり、頭に包帯を巻いた銀時は唐突にそう言った。
もちろん問われた側の凛花は怪訝そうな顔をする。
「んで、って何が?主語と述語を言いましょうか銀時くん」
「(なんか最後に会った時よりSっ気増してねぇか?)……くん付けやめてくんない?凛花に敬語を使われると鳥肌がたつ」
本気で嫌そうに腕をさする銀時。
(銀さん命知らずだ…!)
また机が血の海になる光景を想像して顔をひきつらせる新八だったが、予想に反して凛花は笑みを溢しただけだった。
「酷いのね。…まぁ、私も銀時に敬語なんて使われた日には鳥肌どころか嘔吐までしそうだけど」
「だろ?気持ち悪ぃだけなんだよ、俺達の間で敬語なんか使ってもよォ」
「うん…、それには同感」
さりげにお互いを馬鹿にする発言をしあいつつも、それはいつもの事なのか二人共気にしていない。
むしろそれさえもお互いを解りあっているからこその言葉に聞こえて、仲が悪いどころか良い様に見えた。
「二人とも仲良しでズルいアル、私も凛花と仲良くしたいネ!」
神楽にもそう見えたのか、「銀ちゃん邪魔ヨ、どきやがれコノヤロー」と言いながら後ろから凛花に抱き付いていた。
凛花も万更ではない様で、腰に回された腕を優しく掴んでいる。
「神楽てめー、俺より会ったばっかの凛花を取るのか?俺だって凛花と色々語らいたいってのによおおおぉ!!」
「アンタも結局凛花さんと話したいだけじゃねぇかアアア!!」
新八がツッコミを入れるが、銀時はもう開き直ったらしい。
「え?そうだけど??何、新八お前羨ましいの?だったら素直にそういえばいいのによー、これだから思春期のガキは」
「大体ああいうヤツが1人で部屋でシコシコやってるアルよ。新八の部屋カチコチのティッシュだらけに決まってるネ」
「ねぇよそんなもんんんん!!勝手に決めんなアア!」
見下した様な笑顔を浮かべる二人に青筋を浮かべる新八。
それを見て流石に哀れに思ったのか、ようやく凛花が助けに入った。
「はいはい、二人ともそこまで。新八くんが可哀想でしょ?」
「凛花さん……!」
女神様だ、とばかりに目を輝かせる新八。
今まで庇ってくれる人が居なかっただけにその感動はひとしおだった。
「新八くんの部屋にカチコチのティッシュがあるだなんて……、そんな本当の事言ったら可哀想じゃない」
「凛花さんんん!!?」
恥ずかしそうに言った凛花に新八は再び絶叫した。
「あ…、違ったの?」
「………」
悪気など全くなさそうにそう言う女神様だがしかし、その目だけは爛々と輝いている。
(……忘れてた、)
そういえば凛花さんはサディスティック星の王子の妹だった。
新八はそれを思い出して顔をひきつらせた。
妹だけあってサディスティック星の姫だ。
兄と毒の吐き合いをさせても負けない気がする。
「新八、あきらめろ。アイツもサディスティック星の住人だ」
「………はぁ」
慰める様に肩を叩かれ、新八はガックリとうなだれた。
「……というか、また話逸れちゃったじゃない」
「それは管理人に言え。銀魂を書いてると不思議と話がどんどん逸れてくらしいからな」
「そうゆう裏事情はバラさないでくださいよ…」
ぐたぐだとじゃれて数分後、やっと話を最初に戻す凛花。
新八は呆れた様な顔をしているがそれは完全スルーで話が進んで行く。
「これからどうすんのかって話だよ。お前、行くとこねーんだろうが」
「そうだけど…。銀時に会うまでは、取り敢えずこの辺で住む所を探してから片割れに会わない様な場所でバイトしようかと思って」
そこで銀時は疑問を持ったらしい。
「…バイト?お前なら就職だって出来んだろ」
「あ、確かにそうですよね」
「凛花は外見も器量もカンペキ、マダオとは違って仕事もゴロゴロ見つかるヨ」
銀時に続き、新八と神楽も同意して不思議そうな顔をする。
――が、そうは聞いたが、銀時だけは答えがなんとなく分かっていたのか。
「くだらねーんだよ、お前の考えてる事なんざ」
「………」
何も答えずに僅かに微笑みを浮かべる凛花に向けてそう言い放った。
…だが、昔から無言の微笑みは他人に悟られたくない時の肯定だという事を銀時は十分すぎる程分かっていて。
(……まだ新八と神楽は`他人'か)
内心でそう思って面倒くさそうに頭をかくが、銀時は話を続けた。
「おめーのこった、どうせ"俺達"だけでいいって思ってんだろ?」
「……………」
相変わらず凛花は何も言わない。
「大切な物なんてのはよぉ、背負うまいとしてもいつの間にか背負い込んじまってるモンなんだよ。お前がやってんのはただの逃げだ」
凛花はそこで初めて口を開いた。
…切なそうに目を細めて笑いながら。
「……そっか。うん…、銀時はもう背負ってるんだね」
そう言ってちらりと新八と神楽に目線をやるが、二人は何の事なのか分からない顔をしている。
それにまた凛花は目を伏せた。
(何でそんなに切ない顔してるアルか…?)
そんな凛花の表情を見た神楽は、彼女の腰に回す手にそっと力をこめた。
正直、銀ちゃんが言ってる事は難しくてよく分からないネ。
でもその"大切なもの"が何なのかは何となく分かるヨ。
きっと銀ちゃんが言ってるのは私が万事屋や姐御達に持ってる気持ちの事アル。
私、まだ会ったばかりだけど凛花も大切ネ。
このままだと凛花はすぐに遠くに行っちゃう気がするヨ……。
女の勘ってやつアル。
「凛花、住む所が決まってないならここに住むヨロシ。汚い所だけど凛花が住んだらマシになりそうアル!」
「え……、でも」
目をぱちぱちと瞬かせる彼女。
渋るかと思っていた銀時は意外にもそれに同意した。
「おー、そうしろそうしろ。俺と会ったからには勝手にふらっとどっかに行くのは許さねぇからな」
その言葉に驚いた様に目を瞬かせる凛花。
だがやがて、観念した様にふっと苦笑を浮かべた。
「……やっぱり銀時には分かっちゃうのね」
「あたり前だろうが。何年一緒に居たと思ってんだ。辰馬んトコは別だったみたいだけどよ…、お前が一ヶ所に留まらない事は分かってんだよ」
銀時が凛花に歩み寄る。
拳ひとつ分の距離まで近付いたが、ぴたっとその足は止まった。
そこまで来て銀時は話を聞いていた神楽と新八に向けて声を放つ。
「新八、神楽。お前ら二人で定春の散歩行って来い」
それが二人を部屋から出すための口実だというのはすぐに分かった。
「なんでアルか、銀ちゃん!」
さっきまでは普通に話を聞いていても何も言われなかっただけに、ぎゅっと凛花の服の裾を掴んで反抗を示す神楽。
だが新八はその肩に手を置いて首を横に振った。
「神楽ちゃん、銀さんの言うとおりにしよう」
新八には分かっていた。
ここからは自分達が出られる幕ではない。
まだ知り合ったばかりの自分達に入っていける部分には限界があるのだ。
そんな新八のもの言いたげな視線を受けて神楽もそっと掴んでいた服の裾を離す。
「ほら、行こう」
それを見て安心した様に微笑みながら手を差し出す新八だったが、神楽は無表情でその手をスルーした。
「言われなくても行くアル、触んなヨ眼鏡」
「………」
何も言わずに顔を引きつらせる新八をおいて神楽は先に部屋を出ていく。
「悪いな、新八」
「あはは…。それじゃあ、僕も定春の散歩に行ってきますね」
どこか疲れた様に笑いながら出ていく後ろ姿を見て凛花は後でオロナインCを買ってあげようと思った。
どうやら新八は苦労性らしい。
「流石凛花、もう懐かれてんじゃねぇか」
ちゃかす様な銀時の言葉にだがしかし、凛花はもう笑わなかった。
「……銀時、貴方は片割れにいつ会うともしれないこの江戸にずっと居ろっていうの?」
そう問う目はどこか鋭い。
それと同時に泣き出しそうにも見えた。
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