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夢幻未来
three
「だから、お金も底を尽きかけて子供を養う事が難しくなった兄妹の母は決めたの」

そこで新八がハッ、と息を呑む。

「まさか・・・」

・・・やっぱり鋭い子ね。

私は不自然な程綺麗に笑って見せた。

「そう。・・・母親は、双子が三歳になったばかりの頃に妹の方だけを捨てたの」

・・・だけれど、自分を拾ってくれた人が言っていた。


『――凛花の家からは荷物と一緒に、手紙と、少しですがお金が入っていましたよ――…』


だから、私を捨てた母を、家を、憎む事は出来なかった。

でもそこまで心が広い人間にはなれなくて、彼女が・・・彼女達がした事はしょうがない事だと分かっていながら、嫌いになれずにはいられなかった。


そう思って笠の下で自嘲する様な笑みを浮かべていた凛花に、神楽がぽつりと呟いた。

「・・・その双子の子は、どうなったアルか?」


・・・銀時。

ちらりと横目で銀時の方を向くと、銀時は小さく頷いた。

そう・・・、やっぱり会ってるのね。


凛花は密かにため息をついた。

「・・・兄の方はちゃんと育ててもらって、今じゃ仕事も頑張ってるらしいわ」

苦笑混じりのその声に首を傾げる新八だったが、その事については何も聞かなかった。

「妹さんの方は・・・?」

「そうねぇ・・・、捨てられたと分かっていたから、その子は生きるつもりは無かったの。天人に人身売買をされそうになったり、もうボロボロの身体なのにストレス発散という理由でそこらの酔いどれに殴られたり。世の中の汚い所ばかりを見てきたわ」

新八は首をかしげた。

まるで実際に見てきたかの様な言い方に引っ掛かったのだ。

「けれど、その子を捨てたはずの母親は彼女の事をある人にお願いしていたの。・・・どうか、自分の代わりに育ててやって欲しいと」

凛花はゆっくりと息を吐く。


今でも忘れない。


「こんなに傷だらけで・・・、私が遅れてしまったばかりに・・・」


迎えに来てくれた先生がそう言って、私の為に泣いてくれた事。

包み込んでくれた手の優しさと暖かさを。

今はもう亡きあの人が泣く時は、いつだって誰かの為だった。



そう思って目を細めると、銀時がそっと手に力を込めてくれた気がした。

俺が一緒だ。


そう言われた気がして、凛花は微かに微笑んだ。


そして、話し出すまで待っていてくれた神楽と新八へ顔を向ける。

「その人は独りぼっちだった妹を迎えに来てくれたわ。そして本当の娘の様に育ててくれた」

「凛花・・・、その子幸せになれたアルか?」

「・・・そうね。辛い事や悲しい事もあったけれど、とても幸せだったと思う」


開国、先生の死、攘夷戦争。

沢山の仲間や人を亡くした。

でもそれを越えて生きる今があるからこそ、過去が幸せだったと思えるのかもしれない。

「沢山辛い事はあったけど、今なら言えるの。私の過去はかけがえの無い宝物だから。とても幸せだったと」


私はそれまでずっと被っていた笠を外して、銀時と顔を見合わせて笑った。

「俺もそう思う」

銀時が頭を撫でてくれたのがくすぐったかった。

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あきゅろす。
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