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 自分の上にある傘を押しのけ、腕を掴んでいる有田さんの手をほどこうとした。


 だが、有田さんは余計強い力で腕を掴んでくる。


 さすがの私でも苛々の限界に達してしまった。

「離して」


「断る」


「離せ放火魔!!」


 キッと有田さんを睨みながら怒鳴ると、かじっと肩を掴まれた。


 真正面から有田さんに見つめられ私は言葉を失う。


 有田さんの目からは、いつもの人を見下したような色が消えていた。


 変わりにその瞳に宿っていたのは強くも儚くも見える光。


 どこまでも澄んだ深い瞳に、不覚にも引きこれそうになった。


 視線を反らすことも出来ず内心戸惑っていると、


「使え」


 と、言われた。


 こうも真剣に言われてしまうと断ることは出来ず、私は諦めたように言った。


「……分かったよ。使えばいいんでしょ、使えば」


「素直じゃないな」


「う、うるさい!」


 顔を真っ赤になってるのを隠すために、私は俯きながら傘を受け取った。


「あ、ありがとう」


「お礼は2倍返しな」


「えっ!!」


 驚いて顔を上げてから後悔した。


 有田さんは、いつもの冷笑とは明らかに違う暖かな笑顔を浮かべていたのだ。


 動揺を隠すのを必死になってると、軽く頭を叩かれる。


「じゃあな、チビ」


 有田さんは片手を上げるといってしまった。


 なんか今日の有田さんにはペースを乱さればっかりだったなと思いつつ、私は家に向かったのであった。





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