4 自分の上にある傘を押しのけ、腕を掴んでいる有田さんの手をほどこうとした。 だが、有田さんは余計強い力で腕を掴んでくる。 さすがの私でも苛々の限界に達してしまった。 「離して」 「断る」 「離せ放火魔!!」 キッと有田さんを睨みながら怒鳴ると、かじっと肩を掴まれた。 真正面から有田さんに見つめられ私は言葉を失う。 有田さんの目からは、いつもの人を見下したような色が消えていた。 変わりにその瞳に宿っていたのは強くも儚くも見える光。 どこまでも澄んだ深い瞳に、不覚にも引きこれそうになった。 視線を反らすことも出来ず内心戸惑っていると、 「使え」 と、言われた。 こうも真剣に言われてしまうと断ることは出来ず、私は諦めたように言った。 「……分かったよ。使えばいいんでしょ、使えば」 「素直じゃないな」 「う、うるさい!」 顔を真っ赤になってるのを隠すために、私は俯きながら傘を受け取った。 「あ、ありがとう」 「お礼は2倍返しな」 「えっ!!」 驚いて顔を上げてから後悔した。 有田さんは、いつもの冷笑とは明らかに違う暖かな笑顔を浮かべていたのだ。 動揺を隠すのを必死になってると、軽く頭を叩かれる。 「じゃあな、チビ」 有田さんは片手を上げるといってしまった。 なんか今日の有田さんにはペースを乱さればっかりだったなと思いつつ、私は家に向かったのであった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |