1 小さな小学校。そこで政宗は教師をしていた。 ある雨が降った日、自分が持っているクラスの生徒が何かもぞもぞと動く大きな袋を抱えて学校にきた。 その子は人と関わるのがあまり好きではないのか、良く1人でいる子で政宗が友人関係を心配している生徒だった。 まだ幼い生徒達はその動く袋に興味を持ったが、彼女は決してその中身を誰にも見せない。 そのうち、誰かが何か学校に持ってきてはいけないモノを持ってきたんじゃないかと疑い、それがあっという間にクラス全体に広がり、1人の生徒が政宗にその事を伝えたのだ。 「奈々。その袋の中身を見せろ」 「いや」 教師としてその真相を突き止めなければいけない政宗は、使われていない部屋に奈々を連れてきた。 ここなら、中身も見せやすいのではと思ったが奈々は一向にその中身を見せようとしない。 さぁ、どうしようかと思っていた瞬間、奈々の抱えていた袋が一際激しく動き、彼女の腕から抜け出した袋の中身が思い切り政宗の顔に張り付いた。 「ぶっ!!」 「まさ!?」 慌てて政宗の顔に張り付いた何かを剥がす奈々。それを見て政宗は目を丸くする。 「Black rabbitか?」 「ぶらっくらびっと?」 「黒いウサギって事だ……それどうしたんだ?」 「……」 もう隠す事は出来ないと思った奈々はゆっくりと話し始める。 両親が離婚したこと。 そのせいで親が荒れていること。 最近、苛立ちの矛先が自分と自分の飼っているウサギに向けられ、そのせいでウサギの右目が失明してしまったこと。 これ以上、ウサギが傷つかないようにするために学校に連れてきたこと……。 それを聞いた政宗は目を見開いた後、そっと彼女を抱き締めた。 何故、気付かなかったのだろうか? 彼女が夏なのに長袖と長ズボンを毎日履いている理由に。1人でいるのではなく、故意に彼女が1人でいることに。 「すまない。奈々」 もっと、速く気付いてやれば良かった。そう後悔しても後の祭りだ。けど、今ならまだ打つ手はある。彼女はまだ、自分のようにはなっていないのだから。 「まだ、手遅れじゃねぇ」 「え?」 「奈々。これからはオレがお前を護ってやる」 「ほんと?」 「あぁ、お前はオレと同じだからな」 そう言ってそっと奈々の髪を撫でる。同じ痛みを持つ者同士だ。他人よりも何か分かり合えるものがきっとあるだろう。 「……じゃ、ウサギをどうすかだな」 「ウサギじゃないよ。まさだよ」 「まさ?」 「この子のあだな。本当は政宗って言うの。お父さんとお母さんと一緒にあおばじょうのだて政宗像の近くで拾ったから」 そう言えば政宗先生と同じ名前だね。と笑顔で言う奈々に政宗は微かに笑みを浮かべる。 「なら、こいつはオレみたいにカッコよくなるぜ」 「まさ、カッコよくなるって」 「キュ!」 嬉しそうにすり寄ってくるまさに奈々はキャッキャと笑顔を浮かべる。 「……お前の笑顔、絶対に失わせねぇよ」 ぼそりと呟きながら政宗は教室の窓から見える空を見上げる。 何時の間にか雨は止み、まるで、彼らの未来を示すかのように厚い雲から一筋の光が地上に降り注いでいた。 [戻る] |