おもちゃ箱 その男、他称京の番犬なりA むっすー。そんな擬音語で今の俺の心境は表現できる気がする。 俺の目の前には、ご飯と焼いた魚と野菜が入った茶色く濁ったスープたしか、味噌汁とかいうものだった気がする。 「俺、いらないよ」 「なにいってるんだ雨、食べなきゃ大きくなれないぞ」 「そうよ。雨は焼き魚大好きだったじゃない」 んなこといわれても、俺は道具であってこんなものを食べなくたって大丈夫だ。ちなみに、俺は焼き魚はそんなに好きではない。強いて言えば、煮魚の方が好きだ。 「俺なんかより、お前らが食べろよ」 飯も味噌汁も半分の量しか二人の前にはない。きっとあまり裕福じゃないんだろ。なら、余計こんなに俺へあげるものじゃない。 「私達は良いのよ。雨に沢山食べてほしいの」 「雨はいつも美味しそうに飯を食べるからな。それを見ているだけで、俺達は腹一杯なんだ」 そんなこといって、実際は腹ペコペコなんだろ。見ればわかるよ。それに俺にうまそうに食べろとか、無茶なことをいう。 「仕方ないな」 これじゃ、いつまでたってもこいつらが食べないだろ。適当に食べて他は具合が悪くて食べれないから食べろとでもいえばいい。 「えっと……いただきます」 手を合わせ、箸を手に取る。前に、田中さんから箸の使い方を習っといて良かった。あとごめん田中さん。この日まで箸の使い方なんぞ無駄だと思ってて。 二人の視線を感じながらも、玄米を口に放り込む。何故だろう。今まで食ったどんなものよりも美味しい気がする。 味噌汁も、焼き魚も、シエルの所よりは歴然として質素だ。けど、何故か美味しく、箸が止まらなくて、気付いたら完食していた。こんなに食べたのは記憶にもない。 「うん。良いたべっぷりだ。流石わが息子!」 「わ!」 いきなり隣に座っていた男に、わしゃわしゃと頭を掻き回されて、思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。普段なら、叩き斬ってるか怒るとこなんだが、怒れない。というより、なんで嬉しいんだよ。 「変なの。おれ」 言いながら、男の胸に顔を埋める。こんな初対面の男女をシエルと同じくらい大切だと思うなんてほんと、どうかしてるよ。 [*前へ][次へ#] |