コラボ小説
あり得ない出逢い*
暗い夜の中。赤い光が藍色の空へと反射する。サイレンは、これでもかというくらい鳴り響き、正直近所迷惑で訴えたいくらいだ。その訴える場所がこの騒音の主なのだから、なんとも言えないが。
「まだ捕まらないのか!」
「仕方ないですよ。相手があのチャルナじゃ」
「くそ! またか!!」
だんと車のハンドルを叩く職場の先輩に、神坂は苦笑するしかなかった。
チャルナとは、漆黒のコートと、黒髪以外は全くデータが無い殺人鬼だ。殺人鬼といっても、一般人を殺しているわけではない。彼が殺した被害者には、必ずと言っていいほど、醜悪な裏が関わってくるのだ。俗にいう、法では裁けない者。それが彼の殺人標的だ。正直、彼に感謝を示している人も少なくはない。
だとしても、彼がやっているのは立派な犯罪。その為、警察である神坂達が動くのだが、全くと言っていいほど、証拠が手に入らないのだ。そして今日も、彼は横領に加担していた役人を殺し逃走。チャルナを負傷させたという情報は入ってきているが、それ以外は全く掴めていない。
今日もこのまま署に帰るがオチだなと、心の中で一人神坂は思っていた。
「そろそろ帰りましょう。雨も降ってきましたし」
「そうだな。あ〜今回こそは捕まえられると思ったんだけどな!」
「また、特別捜査隊に任せて終わりですね」
「くそ! なんかムカつく!!」
「まぁ、落ち着いて」
「お前が落ち着きすぎなんだ、馬鹿神坂!」
「あだ!」
八つ当たりとしか言いようのない上司のげんこつに、少し涙目になりながらも、神坂は苦笑を浮かべる。実際問題として、あんな殺人鬼を自分たちの手で捕まえられるとは思わない。いつも扱う殺人事件とは全く違うのだ。正直遭遇したら、ダッシュで逃げたいくらいの心境である。
けど、会いたくない訳ではない。敵としては嫌だが、是非とも話は聞いてみたい。どんな思いであういう人を殺しているのかとか、罪悪感とかはないのとかとか。まぁ、自分が刑事である時点で、それは叶わないだろうが。きっと会うとしたら、裁判所かなんかで話すらまともに出来ないだろう。
「神坂。今日は直帰して良いだとよ」
「やっぱり特別本部に回りましたか」
「俺たちのシマで事件が起きてるっていうのに……ムカつく!」
「抑えてください。血管切れますよ」
「余計なお世話だ。とっとと帰れ!」
「お疲れ様です」
丁度、住んでる場所がここから近いというのもあって、車から降ろしてもらった神坂は、その足で帰宅する。最近別の事件で忙しかったから、家に帰るのは数週間ぶりだ。
「……ん?」
もうすぐ家だという所で、ふと視界に入ったものに首を傾げた。最近街灯の電気が切れたらしく、暗闇としか言いようのない場所で何かが動いた気配を感じても、何がいるのか全く分からない。
「ネコかなにかかな?」
にしては、大き過ぎなかったか? そう疑問に思った瞬間、ふわりと体が浮いた。数瞬後、感じたのは、鈍痛、圧迫、冷たさ、荒い息ーー血臭。
「……へ?」
なにが何だか分からず、思わず間抜けな声が口から零れ落ちる。いや、この状況で冷静に物事を判断できる人がいるなら是非とも会ってみたいと、神坂は本気で思ってしまった。
「あ、あの〜」
「……」
恐る恐る自分の体を地面に縫い付けているものへ、声を掛ける。だが、返事はなく、顎に突き付けられた冷たいモノを余計強い力で押しつけられた。それでやっと分かった。これは銃だ。
「え!? 銃!?」
「……黙れ。五月蠅い」
「あ、すいません」
男とも女とも取れないアルト声と共に、かちゃりと安全装置を外すような音が聞こえたので、慌てて口を紡ぐ。こんな所で殺されるのなんかごめんだ。
どうやら、銃を持っている人間が神坂の上に乗り、銃を顎に突き付けているらしい。それなりの年数警官として生きていた自分が、暗闇というハンデがあったにしろ、こうあっさりも拘束されるとなんだか虚しい。とはいっても、これでは無闇に動けないのが現状だが。
(さて、どうしよう)
暫く沈黙が辺りを支配し、俺って、このままどうなるんだろうと神坂が冷や汗をながしていると、不意に声が聞こえた。
「お前の家はすぐそこか?」
「え? あぁ、近いです」
「……傷を手当するものはあるか?」
「は? えっと、一応あります」
「連れて行け」
「へ? 何を?」
「俺を、お前の家に連れて行け。下手な真似をしたら殺すからな」
「は、はい」
なんで傷を手当てするものと神坂は疑問に思ったが、ふとさっきから鼻腔をくすぐる血臭になるほどと納得した。
(こいつ、怪我してるんだ)
しかも、匂いを嗅いだ感じでいくと、かなりの出血だ。形振り構っていられないほどなのだろう。
「救急車呼んだ方が良いんじゃないですか?」
「良いから、とっとと連れてけ」
「……分かりました」
ぐりっと顎に食い込んだ銃に、神坂は素直に立ち上がる。瞬間、両手首を掴まれ、背中に銃を突きつけられた。素人の技ではない。相当な場数を踏んでいるのだろう。
(あれ、なんか忘れているような……)
まぁ、取りあえず。この背後の奴の治療が先だろう。そう考え、神坂は大人しく足を進めるのであった。
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