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RE:START(男主)
不思議な青年と脱走常習犯B


 森の中は、昼の日差しも射し込んでいるお陰か、思ったよりも明るく、探しやすかった。しかし、肝心のポッチャマの姿は、どこにも見当たらない。


「いないね……」


「うん」


「ブ〜イ」


トウリも鼻をヒクヒク耳をピクピクさせながら探してくれているが、見つからないらしい。ぶんぶんと首を横に振っている。


 もしかしたら、此処にはいないのかもしれない。そう思い、コウが別の場所を探そうと言おうとした瞬間、Nがピタリと止まり、上を見上げる。その表情に、若干の焦りが見え隠れしているし、見開かれた瞳は驚きの色を写している。


「どうしたの?」


「もしかして、あの子?」


「……なんで?」


あんなところにポッチャマはいるんだ? その疑問がコウの口から飛び出したのは、致し方ないだろう。


ポッチャマがいたところ。それは、かなり高い木の上だ。正直、木登りなんて滅多に、いや、しないと言っても過言ではないポッチャマが、どうやったらあんな上に行けるのだろうか。


「とり、あえず、助け、なきゃ」


「ブイブイブ?」


「ん? 俺が、登るよ。その方が、楽だし」


「ブイブ」


「大丈夫」


落ちたりしないよね。と、どこか心配そうに訊ねるトウリにコウは笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でる。こうやって心配してくれる人がいると、とても嬉しい気持ちになる。


「ちょっと、行って、くるね。N、トウリ、よろしく」


「分かった」


コウはひょいっと木に手をかけ、登っていく。コウ自身もビルを登ることは毎日のようにやっていたが、木登りはこちらの世界に来て始めてやったものだ。正直、頻繁にしないし、普段からやっている人に比べれば、素人同然だ。


しかし、そこは人並み以上の運動能力が役立ってくれた。難なくポッチャマの傍まで登ったコウはガタガタと震えている彼へと手を伸ばす。


「ポッチャマ、こっち」


「ポチャポチャ!!」


「……」


好きで此処にいるんだ!! と言われても、説得力がないのは一目瞭然だ。強がりにしか見えない。今にも落ちそうな状況で、なんでこんな事を言うのか。

「ポッチャマ、来て」


「ポチャ!!」


「ちょっ!?」


 コウは驚きの声をあげる。無理もない。ポッチャマは「僕は飛べるんだ!!」という意味不明な言葉と共に木から手を離してしまったのだから。


 落ちていくポッチャマを追って、コウも木から手を離す。嫌な浮遊感の直後に訪れる、風の抵抗と重力に引きずられる感覚。しかも、落下地点が高かったせいか、それを余計感じてしまい、気持ちが悪い。


 なんとか、ポッチャマは空中で捕まえることは出来た。しかし、こんな高さから飛び降りたのは、コウだって初めてだ。受け身をとれるはずがない。しかも、下は硬い地面。このままでは、確実に死ぬだろう。


(結構、ヤバイかも)


 風が唸る音と共に、トウリの悲鳴混じりの鳴き声が聞こえた。彼女に大丈夫だって言ったばかりなのに、思いきり心配をかけている自分が情けない。かといって、この状況を打破する方法は残念ながら、コウには見付からなかった。


 そんな時だった。あの声が響いたのは。


「グォオオオ!!!!」

 自分がきっている風の音とは別の音が近くでしたと思った直後、可憐なけど、迫力のある声と共に、コウの下に白い巨体が表れ、二人を受け止めた。


 見た感じ、ポケモンというのはすぐに分かった。だが、コウはそのポケモンに見覚えがなかった。もしかしたら、別地方のポケモンなのかもしれない。


「コウのバカ!!」


 コウ達を乗せたポケモンが地面についた瞬間、瞳に涙をこれでもかと溜めた人間姿のトウリに抱き付かれた。かなり心配をかけてしまったらしい。まぁ、仕方ないだろう。彼自身だって、正直、死の覚悟をしていたのだし、多分、このポケモンが来なければ、自分達は死んでいただろう。


「ごめん」


「バカバカバカ!! 2度とあんな無茶しないで!!!!」


「うん。ごめん」


 バカバカ言いながら、抱きついてくるトウリの頭を苦笑混じりの笑みを浮かべたコウが撫でる。これでトウリの気持ちが落ち着くとは思わなかったが、これ以外どうすれば良いのか、コウには分からなかった。


「そう、言えば、この、ポケモンって、Nの?」


「僕のトモダチだよ。名前はレシラム。一緒に旅をしているんだ。途中ではぐれてたんだけど、見つかって良かった」


 Nがそう言った瞬間、レシラムは目映い光に包まれた。目を開けられない程の発光後、そこにいたのは、一人の幼い少女だった。


 ふんわりとした長い白い髪。昼の海を溶かし込んだような綺麗な青の瞳。肌は白く、降り積もったばかりの雪のようだ。服装は、白のメイド服で、フリルがオレンジ色に染まっている。ぱっと見たら、等身大のお人形のようである。


 きっと、さっきのレシラムというポケモンの擬人化姿だろう。彼女は、無表情のままコウに近づくと、まるで観察対象を見るかのように彼を見つめる。正直、気まずくてしょうがない。


「えっと……ありがとう?」


「うん」


「……」


「……」


「……」


「……」


「ちょっと、いつまで見つめ合ってるのよ!!」


 時間にしたら、2、3分は見つめ合っていただろう。焦れたらしいトウリがレシラムからコウを守るように、彼に覆い被さる。レシラムを見つめるトウリの目は、キッとつり上がっていて、まるで威嚇をしている小動物のようだ。


 そんな恨み顔で見られても、レシラムの表情は全く動かなかったが。


「お兄さん。不思議」


「え?」


「不思議。お兄さんみたいなの。初めて見た」


 無表情のまま、淡々とした口調でそう言うレシラムの言葉は、こちらが不思議と思ってしまうような事だった。意味が分からず、コウは意味を訊ねようとしたが、もう興味がそれてしまったのか、レシラムはNの元へと行ってしまった。


「今の、なに?」


「あんなガキのいうこと聞かなくて良いわよ!」


「トウリ、なんで、怒ってるの?」


「 コウのバカ!! もう知らない!!」
 


「?」


 何故か怒って出口に向かってしまったトウリに、首を傾げるコウだが、いくら考えても答えには辿り着かない。


(あとで、トウリに訳を聞いて謝ろう)


そう完結したコウがNの方を見ると、Nは既に原型に戻ったレシラムの背に跨がっていた。


「もう、行くの?」


「レシラムが見つかったし。あまり、レシラムの姿を他の人に見せたくないんだ。ヨウジくんとルイちゃんにお礼を言っといてくれ。あと、トウリちゃんにレシラムのせいでごめんって言っておいて」


「分かった」


「じゃあ、さようなら」


『バイバイ、お兄さん』


 頭の中に、レシラムの声が響いたかと思うと、強風と共に彼女の体は空中へと浮かび上がり、やがて青い空へと吸い込まれるように消えていった。


「……さて」


 ポッチャマに、どんなお仕置きをしようかな。そんな事を考えながら、コウは、まだ気絶したまのポッチャマを抱え直すと、出口へと向かったのであった。

 


〜第2章完〜




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あきゅろす。
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