[携帯モード] [URL送信]

RE:START(男主)
不思議な青年と脱走常習犯@

 とある昼下がり。暖かい日差しにトウリを抱えながら、うとうとしていたコウは、ヨウジの叫び声に飛び起きた。


「コウ! ちょっと手伝って!!」


「どう、したの?」


 慌てて研究所の入り口に行ったコウは、ヨウジが抱えているモノを見て、目を丸くした後、半眼になる。


「ヨウジ、人を、拾って、くるの、マイブーム?」


「そんな訳ないでしょ!! コウみたいに道に倒れてたの!」


 速く運ぶの手伝って、と叫び声を上げるヨウジの腕には、ぐったりとした青年が抱えられていた。


 長いモスグリーンの髪がやけに目立つ青年だ。年は十代後半位だろう。動きやすい服装。不思議なアクセサリー。なんだか、不思議が具現化したら、こんな姿をとりそうだ。


 嗚呼、なんかまた事件が起こりそうだな。そうコウが思ったのは言うまでもない。






 とりあえず、青年をソファーに運び、彼が目が覚めたのは、それから数時間後だった。


「……ん」


「目、覚めた?」


「ブイ?」


「ここは……」


「ウツギ、博士の、研究、所」


 ぼんやりとした視線で自分を見つめている青年の質問に簡潔に答えたコウは立ち上がる。ヨウジに、彼が目が覚めたって伝えて来なくては。


「トウリ、その人見てて」


「ブー」


「いやって、言われても」


 ダイルは裏庭にバトルしに行ってて、ルイは夕飯作ってて、ナギは裏の草原で昼寝して、クリムは出掛けてしまっている。


 つまり、今コウの手持ちはトウリしかいないのだ。


「少しで、いいから」


「ブイブ!」


「……」


 絶対に嫌だと言われても、青年を1人で此処に放っておくのは気が引ける。


「じゃあ、トウリ。ヨウジ、呼んで、きて」


「……」


「はぁ〜、後で、ブラッシング、して、あげる、から」


「! ブ、ブイブ!」


 分かったわ。それなら呼んできてあげる。べ、別にブラッシングして欲しいからじゃないからね! そんな事を言いながら部屋を出て行くトウリに、コウが再び溜め息を吐くと、クスリと笑う声が聞こえた。


「あの子。君の事大好きなんだね」


「そうなの?」


「どうやら、素直に甘えられないだけみたいだよ」


「そう、なんだ」


 確かに、トウリは他者に甘えると言うことを殆どしない。どちらかというと棘のある態度をとっていることが多い。たまにだが、甘えるような仕草を見せるのは、コウだけだ。


 それは、イーブイの中では珍しいメスでありながら、色違いという貴重が重なって、様々な悪い奴らに追いかけ回された結果だろう。他者に心を開けば利用される。そう心のどこかで思っているは、否応なしに分かった。


 自分は、家族であるトウリをそんな風に扱おうとは、露にも思っていない。多分、トウリを分かっているだろう。だとしても、やはり消しきれない何かがあるのだろう。


 暗殺者としての自分が消えないのと同じように。


「それにしても、君はポケモンの言葉が分かるんだね」


「なんと、なく」


「僕も、トモダチの心の声が聞けるんだ」


「トモダチ?」


「僕は、ポケモンの事をトモダチって呼ぶんだ。あ、自己紹介がまだだったね。僕はN」


「コウ。君、俺、みたいに、道に、倒れ、てた、みたい、だよ」


「道に?」


「今、君を、助けた、人が、来るから」


 そんな話をしていた瞬間、ドアが開いてヨウジが入ってきた。よほど心配だったのだろう。神妙だった顔が、Nが起きているのを見た瞬間、手に取るように笑顔へと変わる。


「あ、目が覚めたんだね! 僕はヨウジ。コウから何か聞いた?」


「僕が道に倒れてたって」


「そうそう。びっくりしちゃったよ。どこか痛いところとかない?」


「いえ」


「なら良かった。あ、お腹すいてない? 今丁度ルイちゃんが夕飯出来たって言ってたから、貰ってくるよ」


「今日、なに?」


「モーモーミルクたっぷりのシチューだって! ルイちゃん料理上手いから、とても美味しいんだよね!」


 じゃっ、ちょっと行ってくる。そう言って、来て早々部屋を出るヨウジに、コウは苦笑を浮かべた。本当に、彼はお人好しだ。


「僕なんかが、ご飯をご馳走になっても良いのだろうか?」


「大丈夫。それに、ルイの、料理は、本当に、美味しい。……残したら、半殺し、だけど」


「ブイブイブー!」


「……」


 人間なんか殺っちゃえーと嬉しそうにいうトウリに、Nは空笑い。笑みが強張っているのは気のせいではないだろう。


「……本当に、人間が嫌いなんだね」


「ブイ!」


「なら、なんで君は、コウ君と一緒にいるんだ?」


「ブイ、ブイブ!」


 何故って? 簡単よ! コウは特別だからに決まってるでしょ!! コウは、私を助けてくれた。他の人間みたいに、メスだの色違いなんて気にしないで、私を見てくれる。こんな最高の人物なんて、同族だって早々いないわよ!!


 だから、一緒にいる。そう言って、胸を張る彼女の頭をNは撫でようとした……直前、思い切り手を噛まれたが。


「トウリ、ダメ」


「フゥーイー」


「離す」


「……ブイ」


「大丈夫?」


「あぁ、うん。……本当に、彼以外の人間は嫌いなんだね」


 苦笑するNに、苦笑を返すコウ。これに関しては、トウリがどうにかするしかない。


「とり、あえず、止血」


 確か、部屋に救急箱があったはずだ。そんな事を思い出して、コウが棚を漁り始めたのと、ヨウジが慌てて部屋に戻って来たのは、ほぼ同時。


「大変だコウ! また、あの子がいなくなった!!」


「……またか」


「ブーイ」


「あの子?」


 溜め息を吐く2人と、1匹の話についけないNは、状況が分からず、首を傾げるのであった。
 





[*前へ][次へ#]

63/66ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!