RE:START(男主)
もしもと密流A
「ん……」
目を開けた青年が一番最初に見たのは、見慣れない天井だった。ゆるゆると頭を振って起き上がろうとした瞬間、激痛が走り、またベッドに沈みこんでしまった。
確か、自分はポケモンを逃がしたのがバレて仲間から粛正を受け、海に投げ捨てられた筈。なのに、なんで生きているのだろうか?
「目が覚めたの!?」
聞き慣れた声がしたので、そちらを見ると、ロズレイドがこちらを覗き込んでいた。いる筈のない人物の登場に、流石の青年も驚いたらしく、目を丸くしたままロズレイドを凝視していた。
「なんで。それより、ポケモン、達は」
「皆、保護されたわよ」
「そっか」
「そっかじゃないわよ! バカ!!」
いきなりロズレイドに抱き付かれ、青年は固まってしまった。こんな心音が聞こえる程、近くで他人の温もりに触れたのは初めてのせいか、どう対処すればいいのか分からない。
「ロズ、レイド」
「あなたが、死んじゃうじゃないかって、怖くて怖くてたまらなかった。もしもこの瞬間、あなたの心臓が止まったらどうしようって。私の方が心臓が止まった方が楽なんじゃないかって程、心配したんだから!!」
「ごめん」
「ごめんじゃ許さない」
「俺、あげられる、もの、何も、ないよ」
「なんにもいらない。その代わり、私をあなたのパートナーにしなさい!!」
「まだ、言ってるの?」
呆れたように溜め息を吐く青年に、流石のロズレイドもキレた。ポケモンである自分にとってはかなり重大な事なのに、こうも粗か様な態度で記されると、怒りしか浮かばないのは致し方ないだろう。
だから、言ってしまったのだ。心の中に留めておこうと思っていた思いを。
「あなたが好きだから、あなたのパートナーになりたいのよ!!」
「っ!?」
勢い余って青年とキスをしてから、ロズレイドは気付いた。自分はとんでもない失態をしてしまったのではないかと。
しかも、まるで子供の癇癪だ。恥ずかしい過ぎて、彼の方を見ることが出来ない。
「あの、えっと」
「ねぇ、本気?」
「え?」
「俺が、好きって」
「本当よ」
「俺、人、殺して、るよ」
「え?」
「人。前にいた、場所で、当たり前、のように、殺してた」
「……」
「君が、好きって、言ったのは、そういう、人間、だよ」
それなのに、良いの? 言葉は淡々と、けど瞳は恐怖が浮かばせている愛しい人の問いに、ロズレイドの答えは1つしかなかった。
「私は、あなた以外、考えられないわ」
例え、殺人者でも構わない。
「あなたが、好きな気持ちは変わらないわ」
「……」
「今すぐ、返事はいらない。その代わり、あなたのパートナーにして欲しい」
「……俺、好きとか、分から、ない、よ」
青年にとって、他人は深く関わってはいけない者だった。深入りすれば、命取りになる。だから、他人とは常に距離をとっていた。
そんな自分に、好きなんて感覚がわかる筈なかった。
「良いわ。私が教えてあげる」
絶対に落とすから、覚悟してなさい。そう言って自分の頬を触るロズレイドの温もりは、青年にとって不快ではなく、どちらかというと、心地よさを感じるものだった。
「お手、柔らかに」
苦笑を浮かべてる青年に、ロズレイドは笑う。その顔は、今まで見たことがないほど美しい笑顔だった。
それに、青年が頬を赤らめたのは、内緒にしておこう。
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