RE:START(男主)
もしもと密流@
※夢主がワカバタウンではなく、ポケモン密流などの悪党達の所に落ちていたら。
変換機能なし。
夜空を反射させ、本来の色よりも濃い色に染まる海。風といったら、穏やかなものしか吹いておらず、波も穏やかだ。
そんな海の沖に浮かんでいたのは、少し大きめの船。何かのクルーズの船なら分かるが、今は深夜に近い時間だ。しかも、灯台の光を避けるように進んでいるところを見ると、怪しさしか目につかない。
そんな船の中にある一部屋。その部屋の中には所狭しと檻が置かれて、中には傷だらけになってぐったりとしているポケモン達が入れられていた。どのポケモンもこの海に繋がる地方にいるポケモンではない。
しかも、ポケモン達の怪我を見れば、本意でこの檻に入っているわけではないだろう。それはそうだ。このポケモン達は全て密流のものなのだから。
そう。この船は、ポケモン密流船なのだ。その地方にしかいないポケモンは他の地方では高値で売れる。それを利用して、この船は無理矢理捕まえた野生のポケモンを他の地方にいる仲間へと運んでいる最中だった。
「ご飯」
小さな呟きと共に、先程の部屋に入ってきたのは、まだ若い青年だ。
黒い髪。飴色の瞳。日に当たってないかのように白い肌。服装は、黒のズボンにシャツ、革手袋、靴だ。全てが黒一色のせいか、耳についている紅と蒼の石が嵌まったピアスが異様に目立っていた。
彼は、つい先日この組織に入った青年だ。いきなり船の上に落ちてきたらしく、記憶も曖昧という不思議な子だったが、運動神経が抜群に良かったということで組織に入れられたのだ。
今の彼の仕事はポケモン達の餌やり。死なれたら厄介という理由でなけなしの食事しか与えないが、その時にポケモンが暴れだす可能性あるので、結構危険な仕事だったりする。
だが、青年はこの仕事に就いて1ヶ月は経つが一度も怪我をしたことがない。どんな人間でも最低一週間以内には何かしらの怪我をしていた。かといって彼がサボっているわけでもない。組織の中では首を傾げる事実になりつつあった。
「はい」
「フィイ」
「今日は、ヒメリ、入れ、といた」
「フィ〜ユ!」
嬉しそうに声をあげるのは、リーフィアだ。檻の中に入ってきた青年の手に嬉しそうにじゃれている。このリーフィアだけではない。何故だが分からないが、青年はこの檻の中にいるポケモン全員から好かれていた。しかもなんとなくだが、彼らが言っている意味が分かっているのだ。
青年自身はどうしてなのか全然分からないが、便利という理由でそこまで詳しく考えていない。
「離れて、ミミロル」
「キュウ〜」
「ツボミーも」
「キュ!」
「いつにもまして、人気者ね。あなたは」
ミミロルとツボミーに抱き付かれ、困り果てていた青年の耳に届いたのは女性特有の少し高い声。ちなみに、この場に人間は青年しかいない。けど、聞こえてきたきたのは、人の声だ。
溜め息混じりにそちらを見た青年の視界に映ったのは、他のポケモン達と同じように檻へと入れられた一人の女性だった。
年齢は、20前半だろう。長めの朱色の髪は先に近づくほど赤みを増し、先の方は紅に近い色をしている。少し鋭い目は新緑のような綺麗な緑。顔は全体的に整っているせいか、にやりとした嫌な笑みも様になってしまうのでなんとも言えない。
ちなみに彼女は人間ではない。ロズレイドという種族のポケモンであり、さらにいうと色違いだったりする。
気が付いたら人間の姿になれるようになっていたらしく、どうしてなのかは全く分からないらしい。
何故人間の姿になれるのに、こんな密流船にいるのかと訊ねると、同じように色違いの妹を守るため自ら捕まったらしい。なんとも妹思いの姉だ。
まぁ、青年にとっては面倒な奴の印象しかないみたいだが。
青年はあってしまった緑の瞳に、さらに溜め息を吐く。目があった方は青年の行動に少し不満らしく、にやりと笑っていた顔が不機嫌に変わる。
「なによ。つれないわね」
「別に、あんたと、話す、ことが、ないだけ」
「私とも仲良くしましょ」
「ポケモン、なんかと、仲良く、する気、なんて、ないから」
「あなた、ここに来てからずっとその調子ね」
「事実。はい、ロズ、レイド」
他のポケモンのようなフーズではなく、おにぎりを渡してくる青年にロズレイドは笑みを浮かべる。彼女は知っていた。この檻に入っているポケモン達の為に、彼は少しだが親切にしていることを。
さっきのリーフィアのヒメリだって、このおにぎりだって、きっと自分に分け与えられた食事からここのポケモン達へと避けたものだろう。まさか、ポケモンフーズが嫌だと冗談半分で言った事を本当に叶えてくれるとは思ってもみなかった。
無意識のうちにやっているようから気付いていないみたいだが、青年はポケモンに対して優しい。自分の手持ちではない、野生のポケモンにここまで優しくする人間は少ないだろう。
だからこそ、他の人間には牙を向くこのポケモン達も青年にだけはなついているのだ。
ロズレイドもその一匹だったりする。自分が色違いという事実を知っても尚、他のポケモンと変わらず、普通に接してくれる青年にロズレイドは少しずつ、だが確実に惹かれていった。そして、とある決意を固めていた。それを今日も笑みを浮かべた唇から紡ぎだす。
「ねぇ、私をパートナーにする気は起きた?」
「ない」
「なんでよ〜。私、強いわよ。しかも色違いだし、結構お得だと思うんだけど」
「知らん」
「こんなところなんかと出て私と旅しましょうよ。絶対こんなとこより良いわよ」
「面倒」
「本当にそれしか言わないわね」
「それしか、答え、知らない」
ロズレイドを見る青年の瞳は、冷たい。氷のようなそれは、これ以上絶対に入り込んで来るなと訴えるかのようにも見える。
これが、ロズレイドと青年の確かな溝。それを眼前にはっきりと記されたような気がして、ロズレイドは心の中で苦笑を浮かべてしまった。
いつもなら、ここで言葉を濁して別の話題を振るのだが、今日はそれをする気はロズレイドにはなかった。
知っていたのだ。きっと今日が最後になると。明日には、もう自分達は密流団の仲間へと引き渡されてしまうことも。
だから、今日は此処で諦めるわけにはいけない。
「ねぇ、あなたポケモン持っていないのでしょう?」
「うん」
「今後も密流団にいるなら色々物騒でしょ。一匹位ポケモンを持っていても損は無いと思うのだけど」
「これが、終われば、くれるって」
「そういうポケモンは良くないわよ。私みたいなポケモンの方が良いって」
「しつこい」
「なら、あなたの手持ちにしてちょうだよ」
「いやだ。……それだけ、なら、もう、行くよ」
「待って!!」
檻を出ていこうとする青年を、必死に引き止めるロズレイド。必死に縋り付いてくる彼女に流石の青年も驚いたらしく、その飴色の瞳を丸くし、新緑の瞳を見つめた。
その直後だった。船に衝撃が走ったのは。
「……なに?」
「キュ! キュキュキュ!!」
「なんか、外に侵入者が1人来てるみたいわよ。と言うより、あなた結構冷静ね」
「別に、くるとは、思ってた、から」
焦った様子もなく、寧ろ普段と変わらない青年に、ロズレイドは微かな不信感を抱いた。先程の発言も、まるで此処に侵入者が来るのが事前に分かっているみたいだ。
「まさか、あなたーー」
「ほら、行くよ」
ぐいと手を引かれ、檻から出される。ついでのようにポケモンの入った檻の鍵を次々と開けていく青年にロズレイドは確信した。彼はこの事を事前に知っていた事を。
「此処を、真っ直ぐ、行った先に、船がある。泳げない、奴は、それに、乗って。ロズ、レイド、ポケモン、達を、運ぶよ」
「あなたはどうするのよ」
「残る。ここの、ポケモンは、侵入者の、手によって、逃げ出した、って、交錯、しなきゃ」
「なんでそんな事をしてくれるの?」
ずっと疑問だった。何故、野生でしかも商品でしかないポケモンである自分達にここまでしてくれるのかと。
ロズレイドの言葉に、青年は少し困惑したような表情を浮かべながら、口を開いた。
「分からない」
「え?」
「けど、このまま、君達を、売って、しまうのは、なんか、違う気が、したから」
だから逃がすと言うのか。この青年は。きっと、交錯が成功しても、なんかしらの罰を受けることになるのは、分かっているだろう。下手したら、殺されてしまう。けれど、青年がポケモンを逃がさないという選択はきっと生まれない。
やはり、青年は優しい。そうロズレイドは思ってしまった。
だからこそ、こんな危険な場所に青年を置いていくなんて出来ない。
「やっぱり、あなたは密流団に向いてないわ。私と一緒に行きましょ」
本当にこれが最後だ。お願いだから、手をとってくれ。そう思って、ロズレイドは青年に手を伸ばす。が、青年は首を横に振るだけで、手をとることはなかった。
「俺には、ポケモンを、持つ、資格なんて、ない」
呟くように吐き出された言葉は、感情を無理に押し殺したような声だった。ロズレイドが、何か言おうとした瞬間、大きな衝撃が走り、船が大きく揺れる。きっと、侵入者が船に穴か何かを開けたのだろう。船が沈むぞ!! という声が聞こえたのは空耳ではない。
「急いで」
幸い侵入者に殆どの人員を割いてしまっているのか、外には誰もいない。これなら、ポケモンを外へと逃がせるだろう。
「これで、全部?」
「そうね」
「じゃあ、元気、でね」
ところ変わってデッキ。外に出た際に、空や海に逃げられるポケモンは逃げた。あとは、それらが出来ず、船に乗ったポケモンを逃がすだけ。
「……本当に来ないの?」
「しつこい。……速く、妹、の元に、帰って、あげて。きっと、悲しん、でる」
「それは、分かってる。けど」
「速く行け!!」
尚も渋るロズレイドの声を遮るように、怒声を張り上げた青年は、船を蹴り飛ばした。騒動が起きているせいか、それなりに波立っている場所というのも重なって、みるみる船は、密流船を離れていく。
咄嗟に、ロズレイドは青年の名を叫ぼうとした。だが、自分は彼の名を知らない事を思い出し、開いた口は言葉を発する事なく閉じることしか出来なかった。
「私は、あの人の名すら呼ぶことが出来ないのね」
これで、彼のパートナーになろうなんて意気がっていた自分が情けない。いや、自分なんかに、青年のパートナーになる資格なんか元々なかったのかもしれない。そう思うと、悲しいと同時にとても悔しかった。
せめて、最後に青年の顔を見たい。そう思ってもう遠くなりつつある密流船を見たロズレイドは、次の瞬間、目を見開いた。
彼女が見たもの。それは、騒ぎに駆けつけたらしい密流団の手持ち
によって、ぼろぼろになった青年が海へと落ちる所だった。
「舵を頼むわね!!」
近くにいたポケモンに頼み、ロズレイドは海に飛び込んだ。水ポケモンではないので、泳ぎはうまい方ではない。けど、このままでは青年が死んでしまう。そう思うと、水をかく手を止めることなんか出来なかった。
なんとか、青年を見つけ、海面まで引き上げ水ポケモンに頼み岸まで運んで貰ったが、彼の呼吸は浅い。出血も激しいし、毒も受けたらしく、心臓も今にも止まりそうだ。
(お願いだから、死なないで!!)
知らずに涙が溢れて、視界が上手く定ない。なんで、無理にでも彼を船に乗せなかったんだ。その後悔だけがロズレイドの心を蝕んで離さない。
「フィーユ」
「大丈夫わよ」
船で逃げたポケモン達を保護したのは、偶然にもロズレイドが青年を運び込んだポケモンセンターと同じだった。手術中の赤いランプが付いた部屋の前で、やるせない表情で座り込んでいたロズレイドの前に現れたのは、自分と同じように捕まっていたリーフィアだ。
青年の容態を心配そうに聞いてくる彼を勇気づける為に、あんな言葉を言ったが、まるで、自分に言い聞かせているような響きを持ってしまったその声に、ロズレイドは思わず苦笑を浮かべてしまった。
青年がいる手術室のランプが消えたのは、その数時間後。清々しい程、綺麗な太陽の光が廊下に差し込みはじめた頃だった。
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