RE:START(男主)
思いと約束
彼はたった1人、空を見上げていた。その空は灰色で綺麗な空なんて見えない。と言うより、彼は産まれてから数十年、灰色以外の空を見たことがなかった。
太陽の光なんて浴びたことはない。青々とした草木も見たこと無い。周りに広がるのは、壊れかけた灰色の建物と干からびた土地だけ。まるで、モノクロのまま時が止まってしまったようだと彼は思った。
「やぁ」
そんな声が後ろから聞こえてそちらを見ると、笑みを浮かべた青年がいた。生まれたてで路地裏に捨てられていた自分を助け、姉と育ててくれたのが彼だ。その姉は、彼が幼い時に上級貴族に殺されてしまったのをきっかけに、離れ離れになってしまっていたのだが、つい最近再開したのだ。
まさか、生きて会えるとは思ってもいなかったので、人生でこれほど驚いたことはあっただろうか、と思うほど驚いたのは、記憶に新しい。
それから、たまにこうやって会っている。たわいの無い話をして、色々な情報を交換して別れる。それが彼らのパターンだった。
「じゃあな、また」
「うん」
笑みを浮かべながら、手を振る青年は、ふと思い出したかのように、とある事を口にした。
「そうだ、明日宝石店に盗みに入ろうと思ってんだ」
「宝石、店?」
「ほら、この前お前が代表取締役を殺した。そのせいかさ今警備が手薄なんだよ。そのついでに宝石をぬすもっかねって」
「そう、なんだ」
「まぁ、罪滅ぼしでもあるんだけどな」
「?」
「ちょっと前に子分になった奴がいるんだけど、そいつが付けてたネックレス勝手に盗んで売っちまったんだよ。どうしても、姉さんの墓にあげる花が買いたくて。
けどさ、最近になって後悔し始めてさ。あいつに返そうと思ってんだ。それで捜してたら、運良くあの宝石店にあるっていうから」
あいつ、喜んでくれるかな。そんな事を言いながら笑う青年は、この世界では稀な位のお人好しだ。
けど、彼はそんな青年が嫌いではなかった。
「他の宝石を売ったお金で、久々になんか美味しいモノでも食べようよ」
「うん」
「じゃあ、またここでな」
今度こそ行ってしまった青年を見送った後、彼は空を見上げる。憂鬱に見えていた空が、少しだけ綺麗に見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
その翌日。青年の笑顔が、永遠に失われ、その青年と似た少年と彼が出会う事になるのは、また別の話である。
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