RE:START(男主)
はじめてのおつかい
元々治癒力が高かった俺は、全治1ヶ月と言われた怪我を二週間で完治させ、今は博士の手伝いをしている。
あの後、ポケモンは良い奴なんだ! と涙ながら博士が連れてきたポケモンのお陰で、俺のポケモンの印象は改善された。
ヨウジの言う通り、初対面がワニノコだったのがいけなかっただけだろう。
それから、一通りのポケモンの知識とこの世界の常識を学んだ。とても興味深い事柄が多いし、毎日が勉強で楽しい。あの血濡れた日々が嘘のようだった。
「おやつ、時間」
ポケモンフードを持って研究所の裏に広がる草原に行くと、ポケモン達が集まってくる。研究所のポケモンもいるが、野生のポケモンもちらほらいるみたいだ。
ポケモンフードを器に移し、置いてやると一斉に食べ始めるポケモン達。なんだか、和やかな時間だ。
そんな事を思いながら、ポケモン達を眺めていると背後から視線を感じた。振り返らなくても分かる。一番最初にあったワニノコだろう。
あれからワニノコは、近付いて来ることはなかったが、少し離れた所でいっつも俺を見ていた。
後に知ったが、どうやらワニノコの他にチコリータ、ヒノアラシというポケモンがいて、この三体は、初心者用のポケモンとして、10才の子供に渡されるらしい。
そう言えば、この前、初心者の子供がポケモンを貰いに来たときに、あのワニノコを指名していた。が、数時間後に他のに変えてくれと泣きながら帰ってきてしまった事がある。
その子曰わく、ワニノコは自分の言うことを全く聞かないだけではなく、帰りたいと噛みついてくるらしい。何やってんだとヨウジに、怒られている姿を見たのは記憶に新しい。
そんなこんなで、俺がいる間にワニノコは2人の子供に連れて行ったが、2人共数時間後に返しに来るという事態が起きていた。早く貰われれば、俺はこの嫌な視線から逃れられるのに。
「コウ〜」
はぁ、と溜め息を吐いていると、向こうからヨウジがやってくる。どうしたのだろうか?
「どうした?」
「ウツギ博士が、コウに頼みたい事があるって」
「頼み?」
なんだろうか? 首を傾げるが全く分からない。取り敢えず、研究所に戻った方が良いだろう。
「ヨウジ、ポケモン、フード、よろしく」
「了解」
俺は持っていたポケモンフードをヨウジに渡すと、研究所へと戻った。
◇
「実は、ポケモンじいさんっていう人がいるんだけど、その人にこの荷物を届けて欲しいんだ」
「荷物、ですか。いい、ですよ」
「けど、1つ問題があってね……。そのポケモンじいさんの所に行くまでに、草むらがあるんだ」
「野生の、ポケモンが、出る?」
「そう。本当はヨウジくんに行かせた方が良いんだろうけど」
「いい、ですよ」
「え? だって、コウくん。手持ちのポケモンいないでしょ」
「いない。けど、野生、気配、分かる。それに、俺、逃げ足、速い」
「でもやっぱり心配だな」
「ワニ〜、ワニワニワニ!」
どうしようと博士が迷っていると、ドアの隅に隠れてこちらを見ていたワニノコが、いきなり自己主張してきた。
博士はワニノコに気付いていなかったらしく、かなり驚いていたが、俺は気付いていたのでそれ程、驚かなかった。と言うか、なんでこんな時に自己主張してくる。
「お前、連れて、かない」
「ワ〜ニ〜」
「いや」
「ワニ〜、ワニ〜」
「絶対、いや」
「……もしかしてコウくん。ワニノコが何を言ってるか分かるの?」
「なんと、なく」
「ちなみに、なんと?」
「自分を、連れて、行けと」
「それ良いね!」
「は?」
今、博士はなんて言った?
「そのワニノコ。コウくんに懐いてるみたいだし、コウくんもそろそろワニノコと向き合った方が良いと思ってたから、丁度良いね」
「あの……」
「大丈夫、ヨシノシティのちょっと行った先にある所だから。あそこはバトル仕掛けてくる人もいないし、野生ポケモンさえ気にしてれば、直ぐに帰って来れるよ」
「えっと」
「これ、ワニノコのモンスターボールね。あと、念の為、キズぐすりとポケギア。僕とヨウジくんの電話番号は入っているから」
「その……」
「頼んだよ。コウくん!」
「……はい」
うなだれながら、博士からモンスターボールやらを貰う俺と後ろでかなり喜んでいるワニノコがいたのは言うまでもない。
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