RE:START(男主)
お化けと復讐A
――夢の中で約束した。彼女とその家族に、痛みを、悲しみを、悔しさを、憎悪を与えた者達に必ず復讐すると。
刹那、暫く寝ていた獣が、血を求め、ゆっくりと瞳を開けたのを、俺は感じた----。
「……っ」
「兄貴、大丈夫か!?」
「ここは……」
「ポケモンセンター。ノイとダイルとナギに頼んで兄貴を運ぶの手伝ってもらったんだ」
その言葉を聞きながら、コウはゆっくりと辺りを見回した。確かに、ポケモンが貸してくれる部屋の一室みたいだ。
けど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。彼らがいなくなる前に事を進めなくては。
「ユキナリ、俺の、ポケギア、貸して」
「あぁ、はい」
「ありが、とう」
不思議そうに首を傾げているユキナリの手から自分のポケギアを貰ったコウは、ある所へと電話をかけた。まさか、自分から彼へと電話をかける日が来ようとは思ってもみなかった。
「兄貴、誰に電話かけてたんだ?」
「ユキナリ、も、知ってる、人」
通信を切ったコウにユキナリは訊ねるが、要領を得ない答えしか返って来なかった。自分も知っててコウも知ってる人は何人かいるが、話の内容も分からずその人物を特定するのは無理が有りすぎる。
「さてと」
「ちょ、どこ行くんだよ?」
「ポケモン、タワー」
「は!? 今さっきそこで倒れたじゃないかよ! まだあのお化けがいるかもしんないし、危険だよ!!」
「大丈夫。受けた、依頼を、片付けて、くるだけ、だから」
「依頼? 誰からのだよ」
「この子」
コウが言った瞬間、彼の体から何かが飛び出す。それは、先程コウが倒れる原因となったお化けだった。ヒッと短い悲鳴をあげ、後ずさるユキナリ。しかし、それは次の瞬間、不気味な影ではなく、とある者の形へと変化を遂げていた。
ユキナリはその姿に見覚えがあった。いや、他の地方のトレーナーならともかく、カントーのトレーナーなら誰でも知っているだろう。未だに目の前の光景が信じられないのか、種族名を言った自分の声に微かに疑問の響きが混ざってしまったのは致し方ないだろう。
「ガラガラ……?」
「うん。子供と、逃げて、いる、ところを、殺さ、れた、らしい」
「殺された?」
「ロケット、団、らしい。そいつら、が、ポケモン、タワーの、上に、いるから、それを、殺して、くれって」
語るコウの口調は、事務的で淡々としている。だが、その飴色の瞳には、確かな怒りの炎が静かに、けど確かな勢いを持って燃えていた。こちらの世界に来て家族の大切さを知ったコウにとって、ガラガラの怒り、悲しみは痛いほど分かるのだろう。
だからこそ、依頼と言う形で彼女の復讐を引き受けたのだ。例え、自分の手が汚れる事になったとしても。
「ユキナリ、みんなを、よろしく」
「ちょっ、これ兄貴のモンスターボールじゃん! まさか、1人で行く気かよ!!」
「うん。タワーの、ポケモン、は、この子が、いる、限り、襲って、こないし。それに、これは、俺が、独断、で、受けた、から。久々、に、鈍って、たし、丁度、良いよ」
唇の端を引き上げるコウに、ユキナリは背中に氷塊を放り込まれたような悪寒を感じる。肌が粟立ち、知らぬ間に、噛み合わない歯がガチガチと音を立てていた。
今のコウから発せられているのは、ゾッとするほどの殺気だ。慣れている筈のユキナリですら、恐怖を抱く程なのだから、余程のものらしい。否、こんな殺気今まで一度も感じたことがない。
下手したら、自分が彼に殺される。その恐ろしさが、ユキナリの体を掴んで離さなかった。
「……分かった、待ってる。兄貴、気を付けてな」
「うん」
コートを着て、コウが部屋を出て行った瞬間、ユキナリは床にへたり込んだ。どっと脂汗が毛穴という毛穴から噴き出し、足も自分で笑ってしまうほど震えていた。暫く、立つことは出来ないだろう。
「今日のターゲット。色んな意味でご愁傷様だな」
ははは、とユキナリの口から出た空笑いは、静寂な部屋へと消えていった。
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