RE:START(男主)
料理と意外性
今日のウツギ研究所は、やけに静かだった。それもそうだ。ウツギ博士とヨウジは研究会に行ってしまい、その近くに大きなデパートが出来たからと言う理由で女子組も一緒に付いて行ってしまったのだ。
そんなこんなで、今研究所にいるのは、コウと男子組だけだ。暑苦しいことこの故ないが、顔が良い奴ばかりなので、そこは割愛しておこう。
今の時刻は、丁度お昼。コウは昼食を作ろうと台所に来ていた。今日の昼は焼きそばにするらしい……が。
「キャベツ、って、どれ?」
コウは、ルイが置いていってくれたレシピを見ながら、首を傾げていた。
彼自身、料理をしたことがない訳ではない。だが、元々がスラム街出身。しかもその場所では自然の恩恵が皆無に近かったせいか、野菜などはかなりの高級品だったのだ。
その影響か、コウはまだ野菜の名前を全て覚えきれていなかった。台所にあまり立たないというのも主な原因だが、興味関心がないのもあるだろう。野菜よりも面倒な木の実の種類を全てマスターしている所をみると、そうとしか言い様がない。
「これかな」
そう言って、コウが手にとったのは、レタス。お馴染みの間違いである。今ここにそれを訂正する人がいないのは、かなり残念だが。
「にんじん? にく?」
人参は一応分かる。だが、肉って、どの肉を使えば良いんだ? 様々な種類の肉が入っている冷蔵庫に、コウは頭痛を感じたのは仕方ないだろう。
「もうやだ」
レシピを見てるのにも関わらず、材料選びすら出来ない自分に、コウは嫌気がさしてきた。それに空腹が余計拍車をかけ、さらにイライラしてくる。
「ポケモン、フードでも、食べよう、かな」
ポケモンでも食べるのだから、人間の自分でも食べれるだろう。味はともかくしてだ。
本気でそんな事を考え始めたコウに、救世主かのように台所に現れた人物がいた。クリムだ。大きな欠伸をしているところを見ると、いまさっき目が覚めたのだろう。
「クリム、おはよう」
「おう。って、なにやってんだよ」
「焼きそば」
「焼きそば? 作んのか?」
「うん」
「じゃあ、なんでキャベツじゃなくて、レタスが出てんだよ。サラダでも作んのか?」
「え? これ、キャベツ、じゃないの?」
「……」
「……」
クリムはなんとも言えない表情でコウを見た。これって、このままコウに任せておくと大変な事が起きるんじゃないか? ふっと浮かんだ疑問に、クリムは否定する事が出来なかった。このままだと、物体X擬きが自分の昼食になってしまう。それを危惧したクリムは、仕方がないとため息を吐く。
「コウ。俺が焼きそば作ってやる。だからお前は俺を手伝え」
「良いの?」
「別にかまわねーよ。ほら、さっさと作って食べんぞ」
「うん」
手を洗うクリムに、コウは安堵が滲んだ笑みを浮かべたのであった。
その後、クリムは複雑な表情を浮かべながら、こう語ったそうだ。
「コウの奴、包丁さばきだけは、職人技だったぜ」
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