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RE:START(男主)
火の神と海の王

(クリム視点)


 俺は、とある理由でホウエンの方に来ていた。ゆっくりと翼を旋回させながら、海の中央にある小さな岩へと降り立つ。流石に元の姿だと窮屈でおっこっちまうから、人間の姿になってな。


「ホエルオー!」


 何時もの事だから、ここら辺にいるだろうと思い、叫ぶと水面に大きな波紋ができ、そこから大きな水しぶきをあげ、ホエルオーが顔を出す。彼が撒き散らした水しぶきが太陽の光に反射し、宝石のようにキラキラと輝いていた。


 女なら、キャー、キレイ! とか気持ち悪い声で言いそうだ。


『今日は、早いのう、ファイ殿』


「まぁな。ちょっと用事のついでに来たせいかもな」


『カイ殿も喜ぶじゃろうな』


「いつもと同じ様に、頼む」


『承知』


 にこりと笑ったホエルオーは、俺をパクリと口の中に入れると、そのまま海へと潜っていく。一応言っておくが、別に、ホエルオーは俺を食べた訳じゃねぇ。この方が、苦手な水に触れなくて良いから採用しているだけだ。


 まぁ、海の中とか俺には興味ねーしな。


『着きましたぞ。ファイ殿』


「いつもありがとうな。ホエルオー」


『いえいえ、ではわしは此処でまっておるので』


「あぁ」


 ホエルオーに軽く返事をし、俺は洞窟の奥へと進む。いつも来ているせいか、洞窟の中に住んでるポケモンは、攻撃して来ない。してきたら、してきたで、返り討ちにしてやるがな。


「おい、カイ! 遊びに来てやったぞ」


「ファイ!」


 洞窟の奥の奥にいたのは、人間の姿をした、カイオーガのカイだ。


 年は十代前半くらいだ。青みがかった長い髪。この海のように、深みある蒼の瞳。外に出ないせいか、青白い肌。長い丈の白い服には、藍色の刺繍糸で複雑な紋様が描かれている。


 ちなみに、肌と髪と瞳と服の色を抜けば、あのグラードンのランと顔は瓜二つだ。まぁ、こいつら双子だから当たり前だけど。


「ファイ! 今日は何持ってきてくれたの?」


「きのみとジュースとあとポロックだ。ルイの作ったやつを貰ってきたからウマいぜ」


「ほんと!? ありがと!!」


 ぴょんぴょんと喜ぶカイに、俺は微笑を浮かべる。人からの行為は、なんだかくすぐってぇが、心がとても暖かくなる。特にこいつとランは、表現が分かり易くて良い。だからだろうな。こうして度々、きのみ持ってきたりするのは。


「そう言えば、ファイ。人間との生活はどう?」


「まぁ、楽しいぜ。好きにさせてくれるし、正直あんまり野生の時と変わんねえな」


 コウは、俺らを縛る事なんか、ぜってーにしねぇ。好きな時に好きなようにさせてくれる。たまに博士から頼まれたお使いに一緒に来て欲しいなんてお願いはされるが、断れば無理地はしねぇ。なのに、いて欲しい時とかには必ず傍にいてくれるし、俺達があいつに頼み事をすると、たまに嫌な顔をするが、最後にはきちんと引き受けくれる。


 こう言ってると、アイツがパシりにきこえっかもしれねーが、俺はそんな風には思ってねぇ。あいつは、人間の中で唯一信用出来る存在で、俺の大切なマスターだ。アイツの死に顔見るまでは、例え嫌だって言われたって傍にいるつもりだ。まぁ、あいつの事だから、そんな事、いわねーと思うがな。


 たまにコウは、自分は汚れてるから、あまり触らない方が良いよなんて言いやがる。昔いた世界で、暗殺者をやっていてかなりの数の人間を殺してきているから、と。そんな事を、以前あいつの口から聞いた。


 けど、俺には関係ねぇ。コウがどんなに人間の汚ねぇ血で汚れてようが、あいつ以上のマスターなんて、この先数百年生きたって巡り会うことなんか出来やしねぇ。正直、コウにはもうちっと自分に自信を持ってもらいてーな。


 そんな事を言うと、カイは笑みを浮かべながら、口を開く。


「そっか。良いならよかった。ファイ、極度の人間嫌いだったから、気になってたんだ」


「コウは別だ」


「ふふふ。あ、そうだ。この話は聞いた? ホウ姉さんが亡くなったって」


「……あぁ、キャモメ達に聞いた」


「4573歳だっけ。ホウオウにしては随分長生きだったって、ジーランスが言ってたよ」


「まぁ、かなり元気溌剌な人だったからな」


 呟きながら、あの橙色の髪を思い出す。光の加減で変わる虹色の瞳もどんな宝石も叶わない程、美しかったのを今でも鮮明に思い出せる。


 とても、美しい人だった。あの人に関しては、その一言が一番当てはまるだろう。


「そういえば、あの人子供産んでねーだろ。次代のホウオウはどうすんだ?」


「どうやら、アルセウス様が変わりのホウオウを誕生させたらしいよ。けど、なんか事故があったらしくて、行方不明なんだって。今、スイクン達が血眼に捜してるらしい」


「そうなのか」


 あのホウオウファンクラブの3兄弟だ。時間が掛かったとしても絶対に、捜し当てるだろう。


「良かったら、ファイも捜してあげて。僕もここで情報をなるだけ集めようと思うから」


「分かった。手掛かりがあったら、あの3兄弟にきちんと伝えてやれよ」


「うん!」


 元気良く頷くカイの頭を軽く撫でた俺は、出口へと足を向ける。そろそろ帰らねーと、夕方までにジョウトに着かなくなっちまう。


「じゃーな、カイ。また遊びに来る」


「うん! またねファイ」


 ぶんぶんと手を振ってくれるカイに軽く手を振り、来たときと同じ様にホエルオーの口の中に入って地上へと出た俺は、そのままジョウトへと翼を羽ばたかせた。


「次代のホウオウが行方不明……か」


 変な事がおきねーと良いけどな。




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あきゅろす。
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