RE:START(男主)
クジと温泉A
――フエンタウン。
煙突山の麓にあるこの街は、温泉地としてかなり有名であり、ここの名物であるフエンせんべいは、離れたジョウト地方でも有名な位だ。
白い煙があちらこちらから上がるその風景は、写真では見たことはあったが、実際見るのは初めてで。正直、かなり驚いた。
「すごい」
「煙の道って言われる位だしね!!」
感嘆の声を上げる俺の横で、ヨウジが興奮気味の声を上げる。
どうやら、ヨウジはこのフエンタウンの温泉に一度で良いから来たかったらしい。家に帰ってチケットを見せた瞬間、飛び上がって喜んでいた。
ありがとうコウ! とヨウジに抱きつかれた時に、やっとティッシュ箱よりも温泉チケットが当たって良かったと思えた。
温泉チケットが欲しかった人に言ったら、殴られそうだが。
「ここだって、旅館」
「すご、ここって結構有名な所だよ!!」
煙の道を抜けて少し行った所にある旅館は、古風な感じだが、どこか清楚な雰囲気を受ける作りになっていた。
前にいた場所は、コンクリートかゴミ屑で作った建物しかなったし、今住んでいる場所もコンクリートだったので、実は、木造の建物で寝るのは初めてだったりする。
「あ〜、コウさん!」
「ん? ……げ」
ヨウジと旅館に入ろうとした俺の名を呼ぶ声がして、そちらを見た瞬間、俺は固まる。まさか、こんな所で見るとは思ってもみなかった。
「……ヨウジ、行こ」
「ちょちょちょ、コウさん! 無視しないで下さいよ〜」
「君が、いると、碌でも、無いこと、しか、起きない、から、いや」
「私はトラブルメーカーですか!?」
「あれ? 自覚、なかった、の?」
「うぉ! 今、シズクちゃんのハートにコウさんの言葉がグサッて刺さった。グサッて」
う〜と胸を押さえているシズクを半眼で見つめていると、ヨウジががしりとシズクの手を掴んだ。……目がいつも以上にキラキラしているように見えるのは、気のせいだろうか?
「ひょっとして、マサラタウンのシズクちゃん!?」
「はい、そうですが」
「やっぱり! 俺、ワカバタウンのヨウジって言います! まさか、こんな所であのシズクちゃんと会えると思ってなかったです!!」
何故か興奮気味に、シズクへと詰め寄るヨウジに、俺は首を傾げた。と言うより、シズクの話はしたが、ヨウジとシズクは初対面の筈だ。なのに、なんでヨウジはシズクだって分かったのだろうか?
「ヨウジ、シズク、分かるの?」
「マサラタウンのシズクって名前は、ポケモントレーナーだったら、一度は耳にする名前だよ!!」
「そうなの?」
「そうだよ! 最年少でカントーリーグで優勝後、ホウエン、シンオウ、イッシュリーグで初出場で初優勝を果たした、かなりの有名人だよ!!」
「……へー」
「やっぱり、コウさんの反応薄かった!!」
「興味、ない」
「ノア君にもそう言われましたよ。は〜、なんで私が仲良くしたいって思う人達は、こうもバトルに対して興味がないんだろ。しかも2人共、悪だし。倒すべき敵なのに」
「大丈夫。殺され、そうに、なる、前に、殺す、から」
「コウ、人殺しは駄目だよ」
「ヨウジが、そう言う、なら、しない」
「まさかのヨウジさんパワー恐るべし!」
「そう、言えば、なんで、シズク、いるの?」
なんか、話が可笑しな方向ばかりに進んでて、ここにシズクがいる理由がとんと抜けていた事に気付いた俺は、彼女に訊ねる。俺とヨウジは旅行券が当たったから来たのであって、シズクには他の理由があるのだろう。
「いや、兄さんからここの招待券もらったので遊びに来たんですよ。ついでに、彼女にも会ってこうかな〜、って思って」
「彼女?」
「ちょっと此処では名前は出せないんですけど。この辺りに住むポケモンです。良かったら、明日コウさんも会いに行きませんか? きっとコウさんなら大丈夫だと思うので」
「別に、ヨウジ、も良い?」
「はい。口外しなければ」
「ポケモンの住処を脅かすような事は絶対にしないよ。こう見えても、僕は研究員だからね」
「なら、一緒に行きましょう! そしたら、早く旅館に行きましょうよ。もう外暗いし」
「うん。行こっか、コウ」
そんなこんなで、俺達はやっと旅館に入ったのであった。
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