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RE:START(男主)
白い闇と小さな光@


 ――これは、とある子供とポケモンのお話。



「ん〜?」


 幼い子供がとあるデスクを見上げていた。それは、自分の父親が使っている物だ。


 デスクの上には、不思議な文字がかかれた紙、様々な色の石、子供には使い方の分からない機械などが所狭しと置かれている。机に乗っている物は、弄る事を許されているそこは、子供にとって唯一の遊び場になっていると言っても過言ではない。


 そんな見慣れたデスクの上に、昨日までなかった物が置かれていた。大きさは、子供が両手でギリギリ抱えられる位だろう。白に近い殻に、薄緑色の斑点があちらこちらに浮かんでいる。


 多分、此処に子供以外の大人がいたら、これはポケモンのたまごだよ、と教えたかもしれない。けど、ここには、子供1人しかいない。しかも、彼は父親に、この机にあるものは自由に使って良いとも言われていた。


 実は、このたまごは野生では珍しいとあるポケモンから奪い盗ってきた、とても貴重なたまごだったりする。研究対象として彼の父親が下っ端に、研究用の机に置いとけと命令したのだが、間違えて研究済み兼子供の遊び場になっているそこに置いてしまったのだ。


 そんなの子供は、知らないわけで。このたまごを自分の遊び道具と認識してしまった。


「なんだろー、これ」


 子供は近くにある椅子を使ってデスクの上によじ登るとたまごに触れてみた。ひんやりとしていると思っていたそれは、思ったよりも暖かく、触っていた手を瞬時に引っ込める。


「あったかい」


 彼にとって触れるモノの殆どは、無機質で冷たいものだった。例外を言えば、父親と彼の下に付いている部下位だろう。


 それ以外で、初めて知った温もり。その対象に、子供が興味を抱かない訳がない。


「これ、ノアの〜」


 ひょいとたまごを抱えた子供――ノアは、部屋の隅にある自分の寝床へと足を進める。昔、このデスクに置いてあったにも関わらず、「これは、駄目だ」と父親に奪われてしまった事があったのだ。


 それをとても気に入っていたせいか、ノアにとってはトラウマらしく、それからというもの、気に入ったものが出来ると、いつも寝床にある秘密の隠し場に入れることにしている。それは、今まで見つかった事はないからある意味凄い。


 だが、いざ秘密の隠し場にたまごを入れようとした瞬間、ふと思ってしまった。


「これ、つめたくなっちゃわないかな?」


 呟いた瞬間、心配になった。冷たくなってしまったら、これに価値はなくなってしまう。出来れば長くこの温もりを堪能していたいと、ノアは思ったのだ。


「ん〜、あっ、そうだ。ノアがあたためればいいんだ!」


 昔、冷たくなってた父親の手に自分がずっと触れてたら、暖かくなったことがある。それを使えば、これも冷たくならないはずだ。


「あったかいままでいてね」


 念のため、毛布にそれをくるんで抱き締める。父親に見付からないように、たまごを暖めるのがノアの日課になるのは、そう時間はかからなかった。




 

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あきゅろす。
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