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RE:START(男主)
かけっこと瞬足


「コウ、勝負しようぜ」


「勝負?」


 いきなりのクリムの提案に、俺は首を傾げたのであった。


 昼過ぎのワカバタウン。最近は気候が悪い日が多く、今日は久々の晴れだ。


 やることを速めに終わらせた俺は、ナギを枕に研究所の裏庭にある木陰で昼寝をしていた途中。爽やかに頬を撫でる風とひんやりとしたナギの体温がとても気持ちいい。


 自分で枕になってくれないかとナギを誘っておきながら、俺の頭の体重が全て乗って、重くないかと前にナギに訊ねたことがある。


「いや、重くないよ」


「本当、に?」


「元々ヤドンは、感覚に鈍いんだよ。下手したら、自分の体重の倍以上の物が体に乗ってても気付かったりするよ」


「……」


「だから、コウ坊はそこまで気にしないで、私を枕として使って良いよ。そういう約束で君の手持ちに加わったのだし」


 そう言って、笑ったナギを今でも覚えている。正直言うと、そんな物がのった時は、すぐに気付いて欲しいと本気で思ってしまったが。


 そんなナギは、俺の下ですうすうと寝ている。流石、ナギだ。


 俺も俺で寝ようと思った直後、クリムがやってきて勝負をしようという話になったのだ。


「なんで、俺?」


「他のポケモンとやったって意味ねぇだろ。俺は、人間とやりてぇんだ」


「俺、昼寝、してる」


「別に昼寝なんか、後ででも出来んだろうが」


「勝負、だって、後で、できる」


「あ゛〜聞こえねー」


「……」


 なんだそれ。お前はどこかの幼児か? そんな事をふと思ったが、口には出さなかった。クリムは怒らせると、後々が面倒なのだ。


「なんの、勝負、するの?」


「かけっこだ!」


「……」


 どうしよう。本気でクリムが小さい子供に見えてきた。


「なんで、かけっこ」


「コウ、足はぇんだろ」


「それなり、には」


「なら、良いだろ」


「まぁ、うん」


 こうなると、勝負しないと解放してくれなそうだ。残念だが、昼寝はまた別の機会にしよう。


 起き上がった俺は、ぐっと伸びた後、立ち上がる。最近走っていないが、鈍ってはいないだろう。


「勝負内容は、あそこの大きな木まで先に着くこと。ダイルがあそこにいるから、判断はあいつに任せてある」


「ダイルも、巻き、込んだの?」


「面倒と言ってたが、引きずってきた」


「……」


 ダイル、ご愁傷様。俺は向こうで、きっと木にぐるぐる巻きにされているだろう彼を思って、心の中で手を合わした。


「じゃあ、私が合図してあげるよ」


「おう。頼むぜ」


 何時の間にか起きたナギは、手に旗を持って微笑んでいた。というか、ナギ。その旗どこから出したんだ。そんでもって、この状況楽しんでるだろ。


 こうなると、もう本当に後に引けなくなった。溜め息を吐きながら、俺は体勢を整える。


「それじゃ、行くよー。よーい、ドン!」


 旗が上がった瞬間、俺は地を蹴った。若干、追い風である風に体重をのせ、一気に加速を図る。障害物がないだけ走りやすい。


 少し小さく見えていた目的の木がぐんぐんと近くなっていく。案の定、ダイルが木に縄でぐるぐる巻きにされてて、苦笑してしまったが。


 最後の数メートルで、さらに加速をつけ、木の横を走り抜ける。正直、もう少し速度を出せるのだが、体が温まっていなかったせいか、8割前後しかだせなかった。勿論、これ位の距離じゃ息も切れない。


「だぁ! はぁはぁはぁ」


「クリム。負け」


「お前が速すぎるだけだ! と言うより、なんで息切れてねぇんだよ!!」


「これ、位、普通」


「ワニャー」


 いやいや、でんこうせっかよりも速かったから。そんな事を突っ込んでくるダイルに俺は、微妙な表情を浮かべてしまったのは、致し方ないだろう。


「ダイル。あれ、八割、位、しか、出して、ない」


「「……」」


 ぽっかーんと口を開ける1人と1匹。自分は、何か可笑しな事を言っただろうか?


「お前、もう人間やめろ」


「へ?」


 クリムの一言に、俺は首を傾げたのであった。


 

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