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RE:START(男主)
殺し屋青年とスリ少年A


「なに」


「俺も行く」


「邪魔」


「俺の事は、いないものだと思えばいい」


「……勝手に、すれば」


 さっさと行ってしまうカラスの後を、ユキナリは慌てて追い掛けた。銃弾を避け、持っていた釘バットで男達を殺していく。まぁ、殆どの奴はカラスの手で殺されたから、ユキナリ自身はそこまで殺していないが。


 周りに死体しかなくなった頃、カラスはとある場所でしゃがみ込んだ。その視界にあるのは、無残な姿になったお人好し。瞳孔が開かれたままの藍色の目が、彼はもう生きてない事を意味していた。


 ユキナリは、吐き気を覚えて、口を押さえる。自分が心を許していた人物の死がこんなにも辛いものだとは思ってもみなかった。


「……馬鹿だな。本当に」


 そう言ったのは、カラス。しかし、その言葉に嘲るような響きはない。どちらかと言うと、泣きそうな声音だった。


 カラスはそっと見開かれたままの彼の瞳を閉じると、耳へと手をやる。そこにあったのは、彼の瞳と同じ色の藍色の石が嵌まったピアス。いつも彼が片時も離さず付けていたものだ。


 それを取ったカラスは、自分の耳にしてある、紅色の石が嵌まったピアスの横に躊躇いなく刺した。白い肌に垂れる赤がとてもアンバランスなのに、綺麗だった。


「じゃあね。良い、夢を」


 カラスは踵を返す。もう用など無いかのように。それには、流石のユキナリも叫んだ。


「このままほっとくのかよ!」


 あの状況を見ると、カラスとお人好しが知り合いなのは分かる。なのに、なんで死体をそのままにしとくのだろう? このままではいい見せ物だ。そんなの絶対にあってはいけない。


「別に、関係、ない」


「嘘だ! こいつと知り合いなんだろ、ならなんで」


「君、馬鹿?」


 さっきのとは違う、蔑む音が混じった言葉。それは、氷の刃のように鋭く尖ってユキナリの胸を突き刺した。


「な……」


「俺は、死体、愛好、家、じゃないし、カニバ、リズム、でもない。それに、此処に、来たのは、ただ、約束、を、守るため」


「約束……?」


「君には、関係、ない」


「関係なくなんかない!!」


 大声で叫んだユキナリに、カラスは目を見開いた。今日はじめ見たカラスの表情だった。

 けど、それに気付かず、ユキナリは続ける。


「こいつは、俺を庇って死んだんだ! 右も左も分かんなかった俺を拾って、こんな自分で精一杯な世界で俺の事を気にかけて、いつも笑ってくれたんだ。大丈夫、俺がいるよって。あいつがいたから、俺は今ここにいるんだ。そんな大切な奴を、まるでそこら辺にあるゴミみたいなことを言われて黙ってられるかよ!!」


「……君も、こいつに、似てるね」


 本当に、お人好しの馬鹿。そう言われて、カッとしたが、その怒りは、次の言葉で跡形もなく消えた。


「けど、生きてて、欲しかった」


「え?」


「あいつの、笑顔に、救わ、れたのは、何も、君だけ、じゃない、よ」


「お前」


 涙は流してないが分かった。カラスは、お人好しの死を、自分以上に悲しんでいると。


「墓は、作ら、なくて、良いって、言われた。死体も、放って、置いて、って。その、変わり、約束、した――」


『俺が死んだら、このピアスあげる。出来れば死ぬまで身につけといて欲しい。その変わり、俺の為に泣かないでね』


 ユキナリは目を見開く。自分も言われた。けど、意味は全く逆だった。ユキナリは、彼に『出来れば、少しでも泣いてくれると嬉しいな』と言われていたのだ。


 その時の彼は、冗談混じりの声音で笑っていたが、目は虚ろで。とても悲しかったのを覚えている。

「俺は、泣けない。約束、は、破れ、ない」


 ふと、カラスの視線がこちらを向いた。無機質な飴色の中に、しゃがみ込んだ自分の姿が映る。


「だから、我慢、しないで。君だけ、でも、彼の、為に、涙を、流して、あげて」


「っ!」


 耐えきれなかったように、ユキナリは、カラスの懐に飛び込んだ。そして、彼の服にすがりついて泣いた。わんわんと声を上げて、泣けない目の前の彼の分まで補うかのように――。



 そんな不合理な会い方をした2人は、様々な理由で数年の時間を共にすることになる。


 たった1人のお人好しが、繋いだ不思議な縁。それは、彼らの未来を、ぐるりと変えてしまった事をまだ誰も知らない。


 

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