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RE:START(男主)
殺し屋青年とスリ少年@


 ――お前が生きているときに、俺が死んだら、その時は……。


 そう言ってあいつは笑ったんだ。


 悲しそうに、けど、限りなく近いであろう未来を見据えて。虚ろな目で、笑っていたんだ。




 とある荒廃した国。


 過去の過ちにより、自然の恩恵がほぼ皆無なそこは、当たり前のように身分差があった。


 まき散らせる程、金を持つ者は、当たり前のように政治を牛耳り、甘い蜜ばかり啜っているのに対し、下の身分の者達は、明日の食事すらままならない状態だ。


 そんな国だからか、沢山の家がない者が寄り集まって暮らす、スラム街というものがあちらこちらに顕在していた。それは大小様々で、その中でも大きいと称されるスラム街は、普通の国と同じくらいの大きさにもなっている。


 スラム街の中には、決して政府の手が入ることはない。言わば、無法地帯だ。何をしても、どんな事をしても、全て許される。そんな場所だ。


 お陰で、スラム街には暗殺者や暴力団がかなりいる。中には、政府の息がかかった者もいるというのだから、呆れてしまう。


 そんな中でも、密かに名が売れた暗殺者がいた。闇夜に紛れ、確実に獲物をしとめ、後など残さない今世最高と称される殺し屋。


 名のない彼に付けられた通り名は、カラス。しかし、その姿を見た者はかなり少ないと言われている。


 そんな伝説に近い彼が、なんで自分の前にいるんだろうか? 目の前の人物を見ながら、ぼんやりとユキナリは考えてしまった。


 ここは、中級階級の人達が住む街だ。本来なら、自分達のような下の者が入れる場所ではない。


 そんな彼らがこの場所にいる理由は、殆どが罪になることをするためだ。例に漏れず、ユキナリも今回はこの近くにある宝石店である宝石を狙って仲間と侵入した。


 けど、向こうの方が一枚上手で……。仲間は全員撃たれた。きっと、自分を助けてくれた、お人好しのあいつも。


「ねぇ、あいつは、どこ?」


「へ?」


「お人、好し」


「あっちに……けど」


「良いの」


 何が良いのだろうか? ユキナリの中で渦巻いた混乱と疑問が、逃避するかのように、今の状況を覆い隠そうとしている。近くから聞こえてきている怒声や銃弾の音、噎せかえるような血の臭いまでもを聴覚が、嗅覚が、視覚が伝えてこなくなりそうだ。


 その中でも、やけに目の前にいる飴色の瞳が場違いのように存在感を醸し出していた。その場だけ全ての空間から切り離され、取り残されてしまったのではないだろうかと錯覚してしまう。


 1分、いや一瞬だったかもしれない。交じり合っていた視線はふいに反らされた。


「いたぞ!」


 背後から聞こえたのは、自分を追い掛けてきたらしい男の声。彼のスーツに付いた血が、やけに鮮明に視界に写ったのは気のせいだろうか。


 いや、気のせいではない。だってあれは、一緒に盗みに入った奴らの生命の源なのだから。


「邪魔」


 ふいにカラスがそう言った。瞬間、彼の姿が目の前から消えた。え? と思っている間に響いたのは、絶叫とこの場の空気に上書きするかのように広がった鉄の臭い。


 ユキナリは、ゆっくり振り返った。そんな彼の視界に映ったのは、血だまりに倒れた男と、その彼からでた血に濡れたナイフを持ったカラス。電灯の光を受けて、血に濡れていない部分の刃が乱反射してて正直、綺麗だと思ってしまった。


 カラスは何も言わずに、騒ぎを聞きつけて駆けつけた、男の仲間らしき者達を殺していく。そこに感情など一切ない。ただ黙々と致命傷を与えていくだけ。


 彼の歩いた後には、紅が広がっていく。まるで、彼が歩んできた道を見ているような錯覚に陥った。


「待てよ!」


 ぼんやりとしていたユキナリは、慌ててカラスを呼び止めた。振り返ったカラスの瞳には、やはり何も浮かんでいない。冷たい飴色がとても恐ろしく、また美しかった。


 

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