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RE:START(男主)
思い出す彼の名前


「ちょっと待って、整理させて……。という事は、コウどうやって博士の所に来たの? 出身が分かんなくたって、あそこに行く前にいた街くらいは覚えてるでしょ」


「直前、は、思い、出せない。けど、いた、場所、なら、分かる」


「どこにいたの?」


「名前、なんか、なかった。……あ、貴族、が、スラム、って、言ってた」


「スラム?」


「無法、地帯。生きる、為なら、どんな、事を、しても、許さ、れる、場所」


 人を殺しても、騙しても、犯しても、売買しても良い。違法なクスリの売買、臓器の売買、道端に死体が転がってても、薄汚い奴がいても、誰も何も言わない。


 だって、そこでは、自分が生きれれば、他人なんて眼中に無いような人ばかりだったから。


 俺は、そんな場所で産まれ育った。


「もし、出身、を、決めない、と、いけない、なら。あそこが、俺の、故郷、かな」


「……」


 もう酷く懐かしくなっている、以前いた場所に思いをはせる。こちらに来て、博士やヨウジに出会って、ダイル達と家族になって……。こちらの生活が平和過ぎて、思い出す隙がなかった。


「そう、言えば」


 あいつは、元気にしているだろうか?


 不意に思い出したあいつ。あの場所で、長く俺と組んでいた仕事仲間だ。


 面倒な奴だったが、常に気を張っていないといけないあの場所で唯一、あいつの隣は安心できた。


 何故か、最後に思い出すあいつの顔は泣きそうな顔だったけど、出来ればあいつには笑っていて欲しい。


「名前、なんだった、け?」


 あの場所では、名前というモノを必要としなかった。俺に名がなかったのが良い例だ。他にも、組んだことがある奴らの中には、名がない奴は少なくなかったし。


 けど、あいつには、名前があったはずだ。記憶力の良い俺でもすぐに思い出せないって事は、良くて数回、最悪一度も呼んだ事が無かったのだろう。


 確か、そう。あの場所には降らないモノが名前に入ってた気がする。


「そうだ。ユキ、ナリ」


 思い出した途端、靄がかかり始めていた彼の顔も鮮明になる。そうだ、ユキナリだ。


 そう言えば、初めて人の名前と言う概念で覚えたのが、ユキナリだったな。


「ユキナリ?」


「俺の、仕事、仲間」


 そこまで言って、ふと思い出す。そう言えば、ユキナリから預かっていたあのネックレスは、どこにいってしまったのだろうかと。


 確か、雫の形の綺麗な石が付いたやつだ。会ってから少しして押しつけられるように渡されたあれ。高価そうなモノだったし、あれを渡してきた時のユキナリの様子がおかしかったから、売ることも出来ず、首に掛けたままだった筈だ。


 けど、こちらに来たときには、既に首から消えていた。以前から付けていた、ピアスはきちんとあったのに。という事は、あの記憶が曖昧な時になくしたのだろうか?


 彼の手元に戻っているなら良いのだが。


 そんな事を考えていたら、どたどたという音がしてきた。それは、どんどん俺のいる方へ近付いて来ているような……。


「……ダイル」


「うん。なんか嫌な予感がする」


 音で起きたのか、眠たそうに目を擦っているルイを抱え直しながら、出入口になっているそちらを見つめていると。


「コウおにぃちゃん〜、会いたかったよ〜!!」


 満面笑顔のノアが大声と共に、中庭へと突入してきた。


 ダイルじゃないが、嫌な予感がする。そう思った瞬間、この予感はきっと的中してしまうだろうとなんとなく確信してしまい、俺は軽く溜め息を吐いたのであった。



 

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