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RE:START(男主)
どうしようもないこと


 クリムが俺の家族になってから朝食の用意をしていると、ダイルとトウリが寝袋から這い出てきた。まだ眠いらしく、トウリもダイルも目が開いてない。


「お前ら良く寝んな」


「ワニ〜」


「ブ、ブイ!?」


 俺の隣で一緒に朝食の準備をしているクリムを見た瞬間、トウリは桃色の目を零れんばかりに見開き、威嚇する。ちなみに、ダイルはまた夢の中だ。


「トウリ。クリム、家族に、なった」


「ブイー、ブイブイブ!!」


「あぁ? 認めねぇって? 残念だなイーブイ。俺はもうコウにゲットされたんだよ」


「ブイー! ブイ!!」


 それでも私は、あんたなんか認めないんだからとカンカンになっているトウリをニヤニヤと見つめるクリム。なんだろう、クリムの顔がいじめっ子の顔そっくりだ。


「そうかイーブイ、お前俺が人間姿になれるから妬いてんだな。まだ、おめぇは人間になれねぇもんな」


「ブ、ブイブイブ!!」


「トウリ!?」


 私だって人間になれるんだから! そうトウリが叫んだ瞬間、
彼女の体が光に包まれる。その光が収まらないうちにトウリにタックルされ、慌てて彼女を抱き締めると、そこには1人の少女がいた。


 先のクリーム色の髪だけふんわりとカールをえがいた茶色の髪。大きめのピンク色の瞳。少し幼さは残るが、整った顔立ち。


 服は、柔らかそうな襟巻きに長めのコート。短いジーンズに膝下のブーツ。


 なんだか、豊かな家庭に生まれたお嬢さまみたいな感じだ。


「ほら、あたしだって人間になれるんだからね。放火魔!!」


「あぁ? 誰が放火魔だ」


「あんた、この近くにあったロケット団の研究所破壊したんでしょ。ポッポが話してるの聞いたんだから!」


「別に、あの研究所は俺の他に密流されたポケモンが沢山いた。だから、壊しただけだ、文句あんのかよ」


「あたしだって研究所なんか無くなれば良いと思ってるわよ!」


「なら、良いじゃねぇか」


「あんたが言うからムカつくのよ! 取り敢えず、コウに近付かないでよね、放火魔!!」


「放火魔、放火魔うっせぇんだよ。消し炭にすっぞこのチビ!」


「やれるもんならやってみなさいよ!!」


「……」

 バチバチと火花が散る音がしそうな程にらみ合っている2人を無言で見つめる俺。そんな俺の肩をポンと叩く人がいた。


 肌色に赤の三角模様が入ったバンダナで上げた淡いブルーの髪。白い牙のようなピアス。人懐こそうな赤い瞳。


 服装は、少し崩してきているパーカー。ジャラジャラとチェーンが付いたジーンズ。スニーカーと前にヨウジが見せてくれた雑誌に載っていた男性みたいだ。


 ふと、彼を見て首を傾げる。あれ? 誰かに似てるような……。


「まさか、ダイル?」


「そうそう俺様も人間になれるようになりました〜」


 どうどう? と言っているダイルにこくりと頷く俺。自分でもなんで頷いたのか上手く分からないけど、そうやっぱり〜なんてダイルは言ってるから大丈夫だろう。


「それより、クリムの旦那とトウリ嬢ちゃん大変だな〜。コウもトウリ嬢ちゃんに聞いてからクリムの旦那を家族に迎えれば良かったのに」


「とんとん、拍子、に、決まった、から」


「まぁ、トウリ嬢ちゃんとクリムの旦那の反りが元々合わないのかもしれないね。あれは」


 確かに、そうかもしれないと、俺はトウリとクリムを見る。ちなみに、2人はまだ口喧嘩をしている。と言うか、既に喧嘩を通り越してただの悪口大会になっていた。


 まぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うし、大丈夫だろう。


「ダイル。朝食、俺と、一緒で、良い?」


「別に良いよ。ついでに、おいしいみずをくれると嬉しかったりして」


「はい」


「サンキュー、コウ」


 2人の言い合いをそっちのけで朝食を食べる俺とダイル。うん、我ながら美味い。


「ちょっ、コウ! なに俺らほっといてメシ食ってんだよ!!」


「そうよ、コウのバカ!」


「……お前ら、朝食、抜きに、するよ」


「「すみません」」


「自業自得だね〜」


 たく、喧嘩するのは良いが、とばっちりはごめんだ。そんな事を思いながら、寝袋の方に置いておいた、たまごを持った瞬間、それがカッと光始めた。


「え!?」


「お、孵化じゃねぇか」


「孵化?」


「ポケモンが産まれるの」


「産まれる……」


 確かにたまごなのだし、揺れていたから生きているのは分かっていたが、まさかこんな形で孵化するとは思ってもみなかった。


 光ったたまごは、パリパリと音を立てながら縦に割れていき……パカッとたまごが開いたかと思うと、小さな何かが顔を出した。


 三角の黄色と黒の耳。つぶらな黒色の瞳。ギザギザした黒色の尻尾。ピンク色の丸いほっぺ。


 それは俺と目が合った瞬間、元気良く鳴いてくれた。


「ピッチュウ!」


「ピチュー、か」


 どうやら、中身はピチューだったらしい。最初の言葉がまさか、パパだとは思わなかったが、随分と可愛らしい奴だ。


「パパだってよ。お前がパパなんてウケるな」


 ゲラゲラと笑いながら、顔を出したクリムを見た瞬間。


「ピ……ピチュー!!」


 ピチューは、大声で泣き出した。どうやら、クリムの顔が怖かったらしい。


「やーい、泣かしてんの」


「……まぁ、子供から見たら、クリムの旦那の顔は怖いかもね」


「……おめぇら、炭になる覚悟はできてんだろうな」


 ぎろりと2人を睨み付けるクリムの顔に、さらに泣き出すピチュー。それをあやす俺。不思議そうに遠巻きから俺達を見ている野生のポケモン達。


 なんなんだ、これは。


「ほら、怖く、ない」


「ピチュ、ピチュ、ピチュー!!」


「……」


 怖いよ。パパ。怖いー。と言われても、俺にはどうしようもないことの方が多すぎて困るのだが。


「涙……ルイ」


 ぽんと思い付いた名前に、どうだろうと思いながらも、しっくりきてしまった自分自身についた溜め息は、ピチュー改めてルイの泣き声とその他3人の声に掻き消されたのであった。


 

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あきゅろす。
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