RE:START(男主)
誰かに似てる?
――そだてや。
博士から言われていたヒメグマを預かった俺は、そだてやに預けられたポケモンがいる庭で休憩をしていた。
それぞれのポケモンが対応できるように作られた庭には、湖、草原、湿地、岩場など様々なモノがあり、預けられたポケモン達はそれぞれのびのびと生活しているようだ。
ちなみに、ダイルは預けられているポケモン達とバトル、トウリは中央に立っている大樹の方へ昼寝をしに行ってしまっている。つまり、今俺は1人だ。
「久々に、1人に、なった」
そう言われれば、こっちに来てからこんな長い時間1人になるのは初めてだ。何だかんだ隣には、ダイルやトウリ。それに、博士やヨウジがいたから。
前までは、1人が当たり前だった筈なのに……。
「こっちに、来て、変わった、な」
環境だけじゃない。様々なモノに触れて、感じて、自分には無かったモノが沢山出来た、それは、嬉しいという気持ちもあるが、怖いという気持ちも確かにある。
このまま、今まで無かったモノに押し潰されて、自分が自分ではなくなってしまうのではないかという恐怖が。
「こんな強くならないポケモン、もういらない!!」
不意に、小屋の方から、女性特有の高い声が聞こえた。どうやら、かなり怒っているみたいだ。何かあったのだろうか?
不思議に思い、小屋に戻った俺が見たのは、乱暴に小屋のドアを閉めていく女性トレーナーの後ろ姿と困ったような表情を浮かべる老夫婦。そして、カウンターに置かれた、1つのモンスターボールだった。
「どう、したの?」
「お〜コウさん。すまないのう。騒がしくしてしまって」
「大丈夫。それより、さっきの、人は?」
「ここに、ポケモンを預けてたトレーナーなんじゃがのう。わしらが預かっていたポケモンが、強くならないからいらないと言ってきたんじゃ」
「たまにいるんですよ。そう言うトレーナーが」
成る程。と言うことは、2人の前にあるモンスターボールが、さっきのトレーナーがいらないと捨てていったポケモンが入っているのだろう。
正直、ふーんそうなんだとしか思わなかった。俺にとっては、他人のポケモンが捨てられようとどうでも良い事だ。
まぁ、きっとこのポケモンが悪いのではなく、あのトレーナーが悪いのだろうが。
けど、その時の俺は、何故かそのポケモンに、微かながら興味を抱いていた。
以前の俺みたいに、たった1人になってしまったからとかいう同情が生まれた訳ではない。だが、できるなら、どんなポケモンが入っているのか見たい。そんな、不思議な感覚だった。
「その、ポケモン。見せて、貰っても、良い、ですか?」
「おぉ、構わないよ」
おじいさんから許可を貰ったので、俺はカウンターに置きっぱなしなっていたモンスターボールを掴み、放り投げる。空中でパカッと開いたボールから飛び出したのは……。
「ナッツ!」
黄色と茶色の体に円らな瞳、そして、頭に生えた小さな芽が特徴のヒマナッツだった。
「……」
「ナッツ?」
不思議そうに、首を傾げているヒマナッツをじっと見つめる俺。何だろう、コイツ誰かに似てる。
ぽくぽくぽく、ちーん。
俺は、ぽんと手を叩くと、ポケギアである人物へと電話を掛ける。忙しいと言っていたから、出てくれるか。
『もしもし、どうしたのコウ?』
「今、大丈夫?」
『うん、平気だけど……本当にどうしたの? 何かあった?』
「……ヨウジ」
『うん』
「ヒマ、ナッツ。いる?」
『……は?』
俺が電話してくるなんて相当の事だと、ヨウジは思ったらしい。最初っから固い声が電話越しに聞こえてきていたが、俺が用件をいった瞬間、それは素っ頓狂な声に変わった。こっちは真剣なのに失礼な。
『え? ちょっとコウ。話の内容が全く掴めないんだけど』
「今、そだてや。そこで、ヒマ、ナッツ、いた。そいつ、ヨウジ、そっくり。だから、いらない?」
『……ごめん。要約し過ぎてて全然分かんないや』
「コウさん。わしが変わりに話しましょうか?」
「お願い、します」
状況を分かってくれたおじいさんが、ヨウジに話をしてくれるらしい。おじいさん、ありがとう、助かります。
どうやら俺は、あまり長く喋れないせいか、言葉をかなり端折って話す癖があるらしい。そこにいれば、なんとなく意味が分かるのだが、相手がその場にいないと全く分からない説明をしてしまうらしく、よく雇い主に怒られた。
「コウさんのご友人。ヒマナッツを引き取ってくれるそうじゃよ」
「良かっ、たな」
「ナッツ!」
ヒマナッツ自身は、あまり意味が分かっていないみたいだがまぁ良いだろう。きっと、ヨウジの事だから、あんなトレーナーよりも大切に育ててくれる。
「幸せ、に、なれよ」
そっとヒマナッツの頭を撫でると、ヒマナッツは嬉しそうに鳴き声を上げていた。
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